印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年8月4日 きょうは晴れた。よかった。

俺の金のねえのを知ってて、スカイまで一緒に
やることにしてくれた鈴木。やさしいね。

山ん中の一本道。車なんか来やしねえ。ひたすら歩く。

やっと1台来て40分で降ろされ、また歩く。3時間。
・・・これじゃ、ワンゲル部のシゴキだぜ。

グレンコービレッジに着いた。一服しようぜ。

「ジーザス、結構歩いたよね」鈴木も相当足にきてる。
4時だし、きょうはここで泊ろうぜ。 

眼の前は丘に牛。星空星屑。スコットランドはおとぎの国。
絵本か童話の世界山小屋みたいなユースで1泊した。  


8月5日 4台でフォートウイリアム着。小雨。 

入口に生地が飾ってある、サ店に入ってひと休み。



このチェック柄はうちの家紋よって、おばさんが嬉しそうに
そうに自慢する。チェックの柄は家紋なんだ。
窓の外は絵に描いたような丘。雨さえなけりゃいい所だ。
 
ユース満員でB&Bに泊まる。シャワー故障。
しょうがねえ、ウイスキーで寝た。


8月6日 雨。雨ばっかだな、これがスコットランドか。 
B&B出てユースに向う。

ドシャブリの中、3時半着。頭痛え。もう風邪だ。
スープ飲んで寝た。zzz

8月7日 晴れたぞ。朝飯食って9時、ヒッチる。
陽は出てるけど、降るかもな。

山道でヒッチは厳しい。1時間、車来ねえ。

空き地でパン食って地図広げる。きょう中にスカイ行こうぜ。 
この分じゃやばいな、バス乗ろうか。

カイルまで行ってフェリー、バスでインバーモリストン
からポートリー。そっからスカイ。 どうよ。
 
そうしよう、なっ。


1時間に1本のバスで、昼カイルのフェリー乗り場に着いた。

おっ、島すぐそこにじゃん ん? ありゃ違う島か。
でも2分乗って5Pは高えな。帰りは泳ぐか。へへ

フェリー降りたらポリ公が来た。なんなんだ。

パスポート出せ、荷物開けろって。
なんだよ俺等は真面目な学生で・・・

すぐ終わった。ヤバイ奴が流れてきそうな島ではある。

バスでポートリーに行く。こっからは歩き。
1時間半テクテクテクテク、ユースまで一本道。
巡礼者みたいに一列で歩く。
 
スコッチの小学生か。みんなで何か唄いながら行く。
車はねえし遠足にゃもってこいの一本道だ。

4時。山小屋ユース着。満員。
こんな島でほかに泊るとこねえぞ。どうすんだ。
歩き疲れて風邪気味で、頭痛え。お願いだよ。

「食堂で寝て。安くするから」

食堂はヒッピーと学生で満杯。
空いてる階段下に寝袋敷いて横んなった。

鈴木は元気。写真撮りに出た。ほんとタフだね。

俺はシャワー浴びて、足揉んでひと眠り。1時間寝た。
庭に出て一服。お!雨止んだか。目の前で霧が動いてる。



おおぉ すげえ!夕陽が来た。島の色が変わってく。
うおー!まるでサテリコンだ、フェリーニだ。うええ

真っ赤っかな空、ゴールドの海、真っ白の海鳥。
こんな雲見たことねえぞ。同じ地球上か。


8月8日 雨だし霧だしもう1泊。

ユースの食堂でのんびりビール飲んで、絵葉書書いたり。
でも、絵にも描けねえってのはこれだ。すんげえ景色だ。



8月9日 もう雨でも出発だ。

バスでポートリー。ヒッチ2台でヴィグのユースまで行った。
また満員。 今度は半額でキッチンの床に寝た。あ~あ

「俺さ、もう少しここで写真撮りたい」って、一旦別れた。
確かに、写真家としては離れられないこの景色だ。

そんで、また10£借りた。わりいねプリンス。ひひ

8月10日 晴れた。 ひとりは気楽でいいぜ。
鈴木はカメラで撮りまくる、俺は心に焼き付ける。
なんちゃってな。12日にエジンバラで会おうぜ。

1.07£も払ってバスでカイルまで行ってタライみたいな
フェリーに乗って5P。

カイルからインバネスまで列車に乗る。1.5£。
窓からの景色は最高。2時に着いて、一応ネス湖は見た。
気味の悪い湖。 霧と雨。 ネッシーは絵葉書だけ。 

そうか 評判のユースに行ってみっか。

カービスデイルキャッスルのユースまで、また列車にする。 
雨でヒッチも難しいし、しょうがねえ。


列車待ちで公園ぶらついてたら、グレンコーで会った
クリスティーナに会った。 

よーお! また会ったね 元気?

グラスゴー生まれの18歳。保母さんになりたいって。
ピンクのブラウスにジーパン。
ちょい垂れ目で、真っ直ぐ俺の眼を見て話す。
茶色の髪、茶色の眼、薄い唇。うう~ん可愛い!

あなた風邪気味ね、って軽くキス。

そうなんだよ、僕ね、風邪気味なんだ。うへへ

純だね、素朴だね、女房にしたいね。
でも彼女は南、俺は北。後ろ髪でさよならだ。

じゃあなクリス。また、どっかで逢おうぜ。

そんで、列車に揺られてカービスデイルのユースへ。

むおッ、何だこりゃ。 名前の通り城だぞ。
ロッホローモンドも凄かったがもっとすげえ。

ホールにブロンズ像に絵画。美術館かホテルだ。 
ワーデンは民族衣装。 とーんでもねえな。

スコッチのユースはみんなすごい。女学生もいちころ。

ベッドの頭にゃ金の龍。貴族気分でゆっくり眠った。
クリス~ zzz また会おうぜzzzz


8月11日 また晴れた。めずらしい。

食堂行ったら日本人の男がうろうろしてる。
ヘルシンキからだって。同姓のよしみで一緒に朝飯。

卵焼きにソーセージ、ビーンズにコーンフレークと
豪華朝飯付きのユースである。

10時。 奴と一緒にA9分岐まで歩いてヒッチる。

奴は反対方向。俺のが先停まった。じゃあな。
 
15分で降ろされた。相手次第のヒッチじゃしょうがねえ。
天気もいいし、ボナーブリッジまで歩こ。

丘と羊と鳥と雲、一人歩きも飽きない景色。
空き地で一服してヒッチ。2時間やってやっと停まった。

えらく陽気な兄ちゃん。タインの沖仲士だって。そんで
タインに寄ってグラスゴーの自宅に帰るって。ラッキー。


兄ちゃん、海岸沿のパブで停めた。

「ちょっと用たしてくっから、ここで待ってな。
俺の行きつけのパブだ心配ねえ」

カウンターでビール飲んでると、周りにいた沖中士連中が
集まってきた。若いのからじいさんまで皆、墨者だ。

中国か日本かベトナムかって、聞いてくる。

よう、当ててみろよ。ひっひ。
漁師や沖仲士に悪い奴は居ねえ。
からかって、からかわれて乾杯乾杯。

「よっ、終わったぞ」兄ちゃん戻ってきた。

「いいよいいよ。じゃあな、みんな」って 
俺の飲み代払ってくれて出発。

「ほんとはA9だけど、お前の為に別の道通るぞ。
こっちは景色もいいし最高だ」

金払ってくれて、俺の為に廻り道。悪いね。

インバネスからロッホネス廻って・・ あれ?
フォートウイリアムでクリアンラーリック。

こないだ通った道・・まあ、せっかく兄ちゃんが景色の
いい道走ってくれてんだ。そりゃ黙っとこ。

スコッチ弁でジャスチャーたっぷり。両腕に刺青。
名前はジム。25歳。生まれはグラスゴー。沖仲士だ。

仕事無い時はアバディーンでピート掘るって。
こりゃ結構稼げて、俺でも働きゃ週100£になるって。

仕事紹介するぞって言ってくれたが、俺あシガナイヒッピー。
丁重にお断りした。



3時間位走って夜8時。グラスゴーに着いた。まだ明るい。

今晩エジンバラまで行きたかったが、しょうがねえ。
ジムの好意でここまで来れたんだしな。

「どうだ、ここがグラスゴーだ。いい街だろ。
スコットランドで一番。俺の生まれた街だ」

生まれ故郷を見ず知らずの俺に思いっきり自慢する。
いい奴だな、ジム。

「きょうは俺んち泊れよ。明日エジンバラまで送ってやる。
心配すんな。家族も大歓迎するぞ」 

おお、なんていい奴なんだ。日本じゃ考えられねえ。
こういうことがある。スコットランドは特に。

ってわけで、グラスゴー郊外のフラットに着いた。

「おおい、帰ったぞ」

女房か、パツ金小柄の愛想のいい女が出てきた。

「こいつヨシってんだ。ヒッチで拾った日本人」

「ハイ!どうぞ入って」 

坊主も来て、俺の手を握る。人見知りしねえ家族。
いきなり来た見知らぬ日本人をニコっと迎える。立派。


部屋が四つ。リビングは20畳はある。

「シャワー浴びろよ」 はい、悪いね。

シャワー出たらビールがでた。しかも晩飯まで・・・

素敵な女房が、鼻歌まじりで晩飯の支度をする。

腹が大きい。二人目が生まれるって。幸せだねジム。
ポテトに魚フライ、チーズとパン。ありがとさんです。

夕飯が終わって、居間でみんなで座る。

奥さんには、五円玉に紐通してネックレス作ってあげた。

人懐っこい坊主ブライアン3歳、女房はドリーン、 
親父のジム、皆の名前をカタカナで紙に書いて大笑い。

はしゃいで飛びまわるブライアン。キスする夫婦。 
幸せを絵に描いて棒で振り回したってやつだ。

子供部屋で寝かしてもらった。ありがとございます。


翌朝、朝飯出してくれてサンドイッチまで作ってくれた。

ドリーンは可愛くてハスキーで、ジェスチャー入れて
ゆっくり喋ってくれる。

「いつでも遊びにおいでよ。今度は家族が増えてるよ」

っはっは、そうだね。ドリーン、ほんとありがとね。

ブライアンは寂しそうに「チェアス」坊主、元気でな。

二人にキスもらってジムと車に乗り込む。感謝感謝。


日曜なのに悪いね、家族団らん邪魔しちゃってさ。
ジムはさあ、スコットランドで一番幸せな家族だよ。
可愛い子供、最高の女房。 羨ましいよ、ほんと。

「そうか、俺もそう思う。 学歴はないが幸せがある。
お前を乗せたのもなんかの縁だ。 きっとお前も幸せに
なるぜ。ほんとだ。 うっはっは」

おお!ジム。いい事言うじゃねえか。

エジンバラまで1時間。ジムの御利益をもらった。
ほんとありがとね。 

ジムと家族のお陰で、この旅は宝になった。 




< 63 / 113 >

この作品をシェア

pagetop