印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年8月12日
ジムにエジンバラ城まで送ってもらった。
ありがとな。ほんとにお世話んなりました。元気で。
鈴木と約束は12時。 芝生で一服。
「よお! ジーザス」
来た。ゲタ履いてカメラ持って。
お前さ、誰が見てもジャパニーズだな。はっはっは。
天気いいし城行ってみっか。
エジンバラ城に登った。丘の上のでかい城だ。
しかしここ、いちいちうるせえ。
”芝生入るな” ”帽子脱げ” ”笑うな”
の真面目な注意書が建ってる。変なの。
観光客も多い。タトウ広場で日向ぼっこ。
錆びた大砲に白い雲。バグパイプの音に鳩が飛ぶ。
タータンチェックのスカート野郎。異様なおっさん達。
公園歩いてたら日本人の女の子と会った。
小柄で信州弁、飯山だって。可愛いね。
明日はストラトフォード、そんでパリ行って17日に
帰国だって。団体旅行じゃ忙しいな。
俺、ロンドンに住んでるて言ったら、じゃあ扇子あげる、
薬も、これもこれも、おまけに金までくれるって。
マジだから思わず笑った。
そんで偶然にも、その団体に鈴木の友達が居た。
何年振りかだって、二人の話ははずむ。
夕方、鈴木はそいつと一緒にポストハウスホテルに。
俺は一人ユースに行ったが満員。
・・・鈴木のホテル行くかな。
「あら! どうも」
フロントに飯山の娘が居た。着替えてて、昼間より可愛い。
いや、さっきはどうも。ユース満員なんで来ちゃいました。
お土産買ったとか、シェクスピア見たいとか、お弁当あるわよ
とか、ロビーで話す。おい、可愛いぞ。
「じゃあ、また後でね」って。くっく
鈴木の居る部屋は4階。 行ってみた。
「おお、よくわかったな」
うん、ユース満員でさ・・・。
「いいよいいよ、飲もうぜ」
すげえ豪華な一人部屋。さすがパック旅行だね。
駅弁風の弁当を三人で食う。 う~ん、うまい。
梅干し、日本茶、味付け海苔に日本酒。最高じゃん。
鈴木は何年かぶりに会う友達だし、話は弾む。
邪魔しちゃいけねえし、部屋は三人はきついし、
酒も飯もゴチんなったし・・・。
これから俺一人で、この汚ねえ格好で彼女の部屋行くのも
なんだし・・・ここは遠慮しとこ。
そっと出て、寄宿舎みたいな第三ユースへ行く。
10人部屋に泊れた。
シャワー浴びてベッドに横んなる・・・飯山の娘か。
看護婦だって、いい娘だよな。
・・俺、たそがれ病かも。 雨降ってきたzzz
翌日、駅10時。 鈴木と待ち合わせ。来た。
「ジーザスさあ・・」って、なんかうれしそうだな。
「昨日あれから、彼女達も部屋来てダベってさあ、
酒飲んでトランプしたのよ。 そんで彼女が言ってたよ、
あの人ユース行っちゃったのって。」
言ってたって?俺の事心配してたって・・・っきしょう!
あ~ やっぱり、らしくねえ遠慮しちゃあいけねえな。
しょうがねえ、セントアンドリュース行くか。
橋まで鈴木と歩く。奴は御機嫌、俺トボトボ。
陽が出て暑い。Tシャツ一丁で山道歩く。
しかし、ドリーンも飯山もいい女だよなあ。
いつかは俺も所帯持つんだろうな・・・う~ん
・・なんか・・急に・・たそがれてきた。
鈴木、悪いな。
一人でユース戻った。ベルズウイスキー飲んで、
片思いでも失恋でもねえのに・・胸が熱いzzzz
8月14日 晴れ。寝たら元気んなっちゃった。
なーんだ。 よーっし行くか。元気出してよ。
メランコリッてる場合じゃねえ、鈴木追っかけよ。
ヒッチ快調。2台目はトラックの兄ちゃん。
俺、助手席で「腹減ったあ」って、つぶやいた。
実際、昨日の昼からトマト一個だけだ。
女黄昏病だし、金もねえし・・・しょうがねえ。
そしたら兄ちゃん、家に寄ってけって。
悪いね、そんなつもりじゃねえのにさ。
飯ごちになって腹一杯元気百倍。
ありがたいね ター!
3台目でセントアンドリュースに2時着。
来てよかった。街はきれい海風もいい。
平日だってえのに人が多い。ファンフェアの最終日だって。
行ってみっかな。公園でひと眠りしてたら鈴木が来た。
「おお、ここに居たか」
鈴木の友達と、ヒッチで一緒になったっていう関西の
小林君と四人で、パブで飲んでファンフェアの街を歩く。
メリーゴーランド見ながら、ソーセージ食ってビール飲んで、
おねえちゃん眺めて・・・よし、いつもの俺に戻った戻った。
うん、いっひっひ。
作戦はその夜。 友達のホテルに三人で潜りこむ。
11時、裏口は開いてる。裏庭の植え込みから窓叩いて、
よお! 潜入成功。 どうってこたあなかった。
大騒ぎはできねえが、飲んでダベって風呂入って。
酔い潰れて床に寝たzzz。暖房効いて暖ったけえ。
8月15日 9時。玄関から堂々と外出。
街は霧だらけ、10m先も見えねえ。
フィッシュ&チップスで朝飯。
ブラブラしながら、名物のゴルフ場へ行ってみる。
落っこちそうな絶壁。風が冷てえ、でも広くて芝生がいい。
天気いいし、気持ちいいな。一丁やろうか!
5.5Pで木のクラブ借りて、三人でミニゴルフ。
球なんか入りゃしねえ。でも面白え。
夕方まで遊んで友達のホテル帰った。
日本酒飲んで風呂にもはいって久しぶりにぐっすり眠った。
8月16日 鈴木はもう1日居るって。じゃあ、またな。
明日エジンバラで会うことにして、俺は一足先に出る。
ヒッチ3台でエジンバラに着いた。
スコット記念塔の周りぶらついて、芝生寝っころがって金勘定。
もう1£もねえ。晴れてるし、きょうは駅で寝るか。
なんか喧しい。セミの音みてえなバグパイプの合奏か。
タトウ広場で女連中が踊りだしてる。
もう夜だ、駅行くか。
駅構内のベンチに先客ヒッピー5人。泊る気だな。
日本人ひとり居たんで合流して、寝袋掛けて横んなった。
「ヘイ!」 なんだよ。・・・ポリ公か。
「12時から3時まで駅閉める。出ろ」
しょうがねえ。松本君と一緒に駅を出る。
あん中に、屋根つきの手頃な小屋があったぞ。
あそこ行こうぜ。タトウ広場だ。
行ったら門が閉まってる。柵は高え、2m以上ある。
よーし、まず松本君がよじ登って越えた。「OKだ」
よし、管理人は居ねえ。荷物投げて、鉄製の門をよじ登った。
横棒二段登って、このトンガッタの越せば・・・そんで、
左足を槍みてえなとこに乗せて、右足を上げた。
「ブスッ」 うっう・・刺さった!やっちゃった。
おおい、刺さっちゃったよ。
「ええ!刺さった? だいじょぶですか。ああっ!
足じゃない、これ抜かなきゃ、どうします」
引っこ抜くよ・・・。
門の一番上を両手で掴んで、そおおっと・・・。
ぐええ! 痛ってえ ぐおお。
1回降りるか。脂汗かいて、そろそろ、どさっ!
着地の衝撃、たまんねえ。う~。
「ねえ、あそこの横だったらどうですか?」
門の端っこにコンクリ柱がある。
板っきれを立てかけて、一歩目二歩目。もう足ふんばれねえ。
しょうがねえ。槍の柵またぐしかねえな。
股ギリギリ。金玉やったら終わりだ・・っくっふうーっ
・・・越えたぞ。 松っちゃんの肩かりて小屋まで行く。
寝袋枕にまず一服。 う~。
「だいじょぶですか?」
だいじょぶなわけねえ。足に鉄柵が刺さったんだ。
でもひとりじゃあヤバかった。松っちゃんのおかげだ。
靴脱がしてもらい、月明かりで見た。
っげえっ!靴の中血だらけ。靴下脱いだらまだ血が出てる。
傷口見たらもっと痛くなった。ちっきしょう。
親指と中指の間で、2センチ以上ぱっくり割れてる。
松っちゃんがウイスキーで消毒してくれた。悪りいな。
もったいねえがしょうがねえ。
バンソコー貼ってハンカチで縛ってくれた。
足高くして寝てみる。血は少しは止まった。
ありがと。 もう寝ようぜ。
寝袋掛けて左だけ足出して・・・月が見える。
ズキズキ・・・う~ん・・・寝られねえ。ちっきしょうめ。
でも指は動くし骨までいってねえな。
靴も1年半履きっぱなしだしな、ガタきてたな。
しかし、あの柵もとんがりすぎだ。ヴァッキヤロ
翌17日、明け方4時半頃、管理人が来て追い出された。
松っちゃんに荷物持ってもらって、肩かりてビッコ
ひきながら駅まで行って寝直し。8時頃起きた。
松っちゃん悪りいな。もうだいじょぶよ。
俺ロンドンのアパート帰るわ、友達も居るしさ。
俺につきあってたら旅できねえじゃん。
だいじょぶだからヒッチ行ってくれよ。
俺の顔覗き込んで、缶ピースと20P出して
「これどうぞ。 気をつけて下さい」
俺のドジで世話かけちゃったな。ごめん。
ロンドン来たら寄ってくれよ。
松っちゃんは北へ向かった。ありがとな
鈴木とは2時に待ち合わせだし、広場までなんとか歩いた。
「よう、ジーザス 元気!」
奴は、くやしいくらい元気だ。
柵越え事件、話して足見せた。
「ああ!これまずいよ。医者行ったほうがいいよ。
俺、国際保険証もってるし、電話してやろうか」
いや、だいじょぶだ。血は止まったし、たいしたこたァねえ。
でもとりあえずロンドン帰るわ。
「ちょっと待ってろよ」って、鈴木走った。
公園の真ん中、日本人の団体さんと何か話してる。
「ほら、もらってきたぞ。ガイドが色んな薬持ってったぞ。
これで消毒だって、そんでこれ飲めって」
おお。消毒液と鎮痛剤、包帯まである。ありがたい。
早速、消毒して包帯巻いて靴底に新聞紙入れて・・
足が太くなりすぎて、靴が履けねえなくなった。
肩かりて駅まで行って、切符まで買ってもらった。
悪りいなプリンス、恩にきるよ。
「じゃジーザス、気いつけてな。 おれも1週間位で
ロンドン戻るからさ。 やばかったら医者行けよ」
ああ、ありがと。お前も気をつけろよ。
ベンチで1時間待って、8時のバスに乗り込んだ。
ズキズキうとうと、うとうとズキズキ。
足は痛えし、腹は減ったし金はねえし、なっさけねえ。
ロンドンまで10時間。
完全に治さなきゃ中近東どこじゃねえぞ。
ついてねえな。 ったくよお~。
ジムにエジンバラ城まで送ってもらった。
ありがとな。ほんとにお世話んなりました。元気で。
鈴木と約束は12時。 芝生で一服。
「よお! ジーザス」
来た。ゲタ履いてカメラ持って。
お前さ、誰が見てもジャパニーズだな。はっはっは。
天気いいし城行ってみっか。
エジンバラ城に登った。丘の上のでかい城だ。
しかしここ、いちいちうるせえ。
”芝生入るな” ”帽子脱げ” ”笑うな”
の真面目な注意書が建ってる。変なの。
観光客も多い。タトウ広場で日向ぼっこ。
錆びた大砲に白い雲。バグパイプの音に鳩が飛ぶ。
タータンチェックのスカート野郎。異様なおっさん達。
公園歩いてたら日本人の女の子と会った。
小柄で信州弁、飯山だって。可愛いね。
明日はストラトフォード、そんでパリ行って17日に
帰国だって。団体旅行じゃ忙しいな。
俺、ロンドンに住んでるて言ったら、じゃあ扇子あげる、
薬も、これもこれも、おまけに金までくれるって。
マジだから思わず笑った。
そんで偶然にも、その団体に鈴木の友達が居た。
何年振りかだって、二人の話ははずむ。
夕方、鈴木はそいつと一緒にポストハウスホテルに。
俺は一人ユースに行ったが満員。
・・・鈴木のホテル行くかな。
「あら! どうも」
フロントに飯山の娘が居た。着替えてて、昼間より可愛い。
いや、さっきはどうも。ユース満員なんで来ちゃいました。
お土産買ったとか、シェクスピア見たいとか、お弁当あるわよ
とか、ロビーで話す。おい、可愛いぞ。
「じゃあ、また後でね」って。くっく
鈴木の居る部屋は4階。 行ってみた。
「おお、よくわかったな」
うん、ユース満員でさ・・・。
「いいよいいよ、飲もうぜ」
すげえ豪華な一人部屋。さすがパック旅行だね。
駅弁風の弁当を三人で食う。 う~ん、うまい。
梅干し、日本茶、味付け海苔に日本酒。最高じゃん。
鈴木は何年かぶりに会う友達だし、話は弾む。
邪魔しちゃいけねえし、部屋は三人はきついし、
酒も飯もゴチんなったし・・・。
これから俺一人で、この汚ねえ格好で彼女の部屋行くのも
なんだし・・・ここは遠慮しとこ。
そっと出て、寄宿舎みたいな第三ユースへ行く。
10人部屋に泊れた。
シャワー浴びてベッドに横んなる・・・飯山の娘か。
看護婦だって、いい娘だよな。
・・俺、たそがれ病かも。 雨降ってきたzzz
翌日、駅10時。 鈴木と待ち合わせ。来た。
「ジーザスさあ・・」って、なんかうれしそうだな。
「昨日あれから、彼女達も部屋来てダベってさあ、
酒飲んでトランプしたのよ。 そんで彼女が言ってたよ、
あの人ユース行っちゃったのって。」
言ってたって?俺の事心配してたって・・・っきしょう!
あ~ やっぱり、らしくねえ遠慮しちゃあいけねえな。
しょうがねえ、セントアンドリュース行くか。
橋まで鈴木と歩く。奴は御機嫌、俺トボトボ。
陽が出て暑い。Tシャツ一丁で山道歩く。
しかし、ドリーンも飯山もいい女だよなあ。
いつかは俺も所帯持つんだろうな・・・う~ん
・・なんか・・急に・・たそがれてきた。
鈴木、悪いな。
一人でユース戻った。ベルズウイスキー飲んで、
片思いでも失恋でもねえのに・・胸が熱いzzzz
8月14日 晴れ。寝たら元気んなっちゃった。
なーんだ。 よーっし行くか。元気出してよ。
メランコリッてる場合じゃねえ、鈴木追っかけよ。
ヒッチ快調。2台目はトラックの兄ちゃん。
俺、助手席で「腹減ったあ」って、つぶやいた。
実際、昨日の昼からトマト一個だけだ。
女黄昏病だし、金もねえし・・・しょうがねえ。
そしたら兄ちゃん、家に寄ってけって。
悪いね、そんなつもりじゃねえのにさ。
飯ごちになって腹一杯元気百倍。
ありがたいね ター!
3台目でセントアンドリュースに2時着。
来てよかった。街はきれい海風もいい。
平日だってえのに人が多い。ファンフェアの最終日だって。
行ってみっかな。公園でひと眠りしてたら鈴木が来た。
「おお、ここに居たか」
鈴木の友達と、ヒッチで一緒になったっていう関西の
小林君と四人で、パブで飲んでファンフェアの街を歩く。
メリーゴーランド見ながら、ソーセージ食ってビール飲んで、
おねえちゃん眺めて・・・よし、いつもの俺に戻った戻った。
うん、いっひっひ。
作戦はその夜。 友達のホテルに三人で潜りこむ。
11時、裏口は開いてる。裏庭の植え込みから窓叩いて、
よお! 潜入成功。 どうってこたあなかった。
大騒ぎはできねえが、飲んでダベって風呂入って。
酔い潰れて床に寝たzzz。暖房効いて暖ったけえ。
8月15日 9時。玄関から堂々と外出。
街は霧だらけ、10m先も見えねえ。
フィッシュ&チップスで朝飯。
ブラブラしながら、名物のゴルフ場へ行ってみる。
落っこちそうな絶壁。風が冷てえ、でも広くて芝生がいい。
天気いいし、気持ちいいな。一丁やろうか!
5.5Pで木のクラブ借りて、三人でミニゴルフ。
球なんか入りゃしねえ。でも面白え。
夕方まで遊んで友達のホテル帰った。
日本酒飲んで風呂にもはいって久しぶりにぐっすり眠った。
8月16日 鈴木はもう1日居るって。じゃあ、またな。
明日エジンバラで会うことにして、俺は一足先に出る。
ヒッチ3台でエジンバラに着いた。
スコット記念塔の周りぶらついて、芝生寝っころがって金勘定。
もう1£もねえ。晴れてるし、きょうは駅で寝るか。
なんか喧しい。セミの音みてえなバグパイプの合奏か。
タトウ広場で女連中が踊りだしてる。
もう夜だ、駅行くか。
駅構内のベンチに先客ヒッピー5人。泊る気だな。
日本人ひとり居たんで合流して、寝袋掛けて横んなった。
「ヘイ!」 なんだよ。・・・ポリ公か。
「12時から3時まで駅閉める。出ろ」
しょうがねえ。松本君と一緒に駅を出る。
あん中に、屋根つきの手頃な小屋があったぞ。
あそこ行こうぜ。タトウ広場だ。
行ったら門が閉まってる。柵は高え、2m以上ある。
よーし、まず松本君がよじ登って越えた。「OKだ」
よし、管理人は居ねえ。荷物投げて、鉄製の門をよじ登った。
横棒二段登って、このトンガッタの越せば・・・そんで、
左足を槍みてえなとこに乗せて、右足を上げた。
「ブスッ」 うっう・・刺さった!やっちゃった。
おおい、刺さっちゃったよ。
「ええ!刺さった? だいじょぶですか。ああっ!
足じゃない、これ抜かなきゃ、どうします」
引っこ抜くよ・・・。
門の一番上を両手で掴んで、そおおっと・・・。
ぐええ! 痛ってえ ぐおお。
1回降りるか。脂汗かいて、そろそろ、どさっ!
着地の衝撃、たまんねえ。う~。
「ねえ、あそこの横だったらどうですか?」
門の端っこにコンクリ柱がある。
板っきれを立てかけて、一歩目二歩目。もう足ふんばれねえ。
しょうがねえ。槍の柵またぐしかねえな。
股ギリギリ。金玉やったら終わりだ・・っくっふうーっ
・・・越えたぞ。 松っちゃんの肩かりて小屋まで行く。
寝袋枕にまず一服。 う~。
「だいじょぶですか?」
だいじょぶなわけねえ。足に鉄柵が刺さったんだ。
でもひとりじゃあヤバかった。松っちゃんのおかげだ。
靴脱がしてもらい、月明かりで見た。
っげえっ!靴の中血だらけ。靴下脱いだらまだ血が出てる。
傷口見たらもっと痛くなった。ちっきしょう。
親指と中指の間で、2センチ以上ぱっくり割れてる。
松っちゃんがウイスキーで消毒してくれた。悪りいな。
もったいねえがしょうがねえ。
バンソコー貼ってハンカチで縛ってくれた。
足高くして寝てみる。血は少しは止まった。
ありがと。 もう寝ようぜ。
寝袋掛けて左だけ足出して・・・月が見える。
ズキズキ・・・う~ん・・・寝られねえ。ちっきしょうめ。
でも指は動くし骨までいってねえな。
靴も1年半履きっぱなしだしな、ガタきてたな。
しかし、あの柵もとんがりすぎだ。ヴァッキヤロ
翌17日、明け方4時半頃、管理人が来て追い出された。
松っちゃんに荷物持ってもらって、肩かりてビッコ
ひきながら駅まで行って寝直し。8時頃起きた。
松っちゃん悪りいな。もうだいじょぶよ。
俺ロンドンのアパート帰るわ、友達も居るしさ。
俺につきあってたら旅できねえじゃん。
だいじょぶだからヒッチ行ってくれよ。
俺の顔覗き込んで、缶ピースと20P出して
「これどうぞ。 気をつけて下さい」
俺のドジで世話かけちゃったな。ごめん。
ロンドン来たら寄ってくれよ。
松っちゃんは北へ向かった。ありがとな
鈴木とは2時に待ち合わせだし、広場までなんとか歩いた。
「よう、ジーザス 元気!」
奴は、くやしいくらい元気だ。
柵越え事件、話して足見せた。
「ああ!これまずいよ。医者行ったほうがいいよ。
俺、国際保険証もってるし、電話してやろうか」
いや、だいじょぶだ。血は止まったし、たいしたこたァねえ。
でもとりあえずロンドン帰るわ。
「ちょっと待ってろよ」って、鈴木走った。
公園の真ん中、日本人の団体さんと何か話してる。
「ほら、もらってきたぞ。ガイドが色んな薬持ってったぞ。
これで消毒だって、そんでこれ飲めって」
おお。消毒液と鎮痛剤、包帯まである。ありがたい。
早速、消毒して包帯巻いて靴底に新聞紙入れて・・
足が太くなりすぎて、靴が履けねえなくなった。
肩かりて駅まで行って、切符まで買ってもらった。
悪りいなプリンス、恩にきるよ。
「じゃジーザス、気いつけてな。 おれも1週間位で
ロンドン戻るからさ。 やばかったら医者行けよ」
ああ、ありがと。お前も気をつけろよ。
ベンチで1時間待って、8時のバスに乗り込んだ。
ズキズキうとうと、うとうとズキズキ。
足は痛えし、腹は減ったし金はねえし、なっさけねえ。
ロンドンまで10時間。
完全に治さなきゃ中近東どこじゃねえぞ。
ついてねえな。 ったくよお~。