印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年9月21日 スイスはヌシャテルのホテル。
目が覚めたら光る湖。ちょっとした王様気分。へへ
今まで、優雅な旅なんてなかったが、ヨーロッパ最後の旅に
このホテルとは上出来だ。
今朝、工藤氏がイビサ島に発った。
バルセロナに行った時、島の名前は聞いたことがある。
いいとこだろうな。暖ったかいしさ・・・
ヤスシ君とその空いた部屋に移って、久々風呂入って洗濯。
豪華なホテルの、ゆっくりゆったりは気持ちいい。
ここはホテルだと思ってたら、長期滞在の半年貸しだって。
飯付750スイスフラン。しかしこういう所よく探すよ。
やっぱりヒッピーは鼻が効く。
ヤスシ君も広瀬さんもここで皿洗いのバイトをしてる。
でも日本人5人、順番待ち。
言葉もあって、なかなかレギュラーとれねえって。
NYと同じだ。稼げる仕事は簡単じゃねえ。
NYと違うのは、ヤサも飯も最高だしのんびりしてる。
このまま居着いちゃう感じだ。っひっひ
こりゃ早いとこアテネに飛ぶかな。
夜は、猪狩さんがホテルの残り物でチーズの旨いもん作って
きてくれて晩飯。美味え。そりゃ材料は逸品だもんな。
ごっそさんです。
9月22日 窓からは雪のアルプス。湖は霞んで肌寒い。
思わず人生を想っちゃう景色。
・・・ここのバイト、俺の入るスキマはねえ。
金は100フラン。アテネまでのエアーにゃ足りねえ。
さ、どうすっか・・・とりあえずビール飲んで・・・。
広瀬さんと飯田さんが来週ボルドー行くって。
フランスでぶどう狩りだって。
10月1カ月だけ、1日で40フラン稼げる?
いいじゃん!アゴ付きヤサ付き、ワインも付いて。
おもしれえ・・のるか・・・のった。俺も行く。
9月23日小雨。日曜でレストランも居酒屋も休み。
もらったラーメン食って、家や友達に絵葉書書く。
フランスのボルドーにぶどう狩り行くって言ったって、
なんのこったかわかんねえだろな・・・
9月24日 ロンドンから頼んでおいた荷物が届いた。
中近東インドの本と、切手に風呂敷き、五円玉。
中学同僚のアメリカ留学経験のある三間に頼んでおいた。
あと2・3日遅れたらアウトだった。ありがとさん。
9月25日 夕方まで読破して俺のインドノートができた。
ルートと宿押さえて、あとは現地のヒッピー情報だ。
外は霧雨。10サンチーム賭けてナポレオン、
6時間もやって10サンチ-ムの負け。俺に博才は無い。
9月26日 いよいよ明日出稼ぎぶどう狩り、ボルドーだ。
手紙書いて荷造りして金勘定して、風呂入って寝た。
9月27日 朝8時。
猪狩さん、籾山君、ヤスシ君、色々お世話んなりました。
出稼ぎ終わったらまた来ます。
そん時きゃまたよろしく、お元気で。
広瀬さん飯田さんと久しぶりのヒッチ。でも三人はきつい。
ボルドーユースで落ち合おうことにして、俺が先に停めた。
じゃあ、ボルドーで会いましょう。
1台でローザンヌ、また1台でジュネーブまで行った。
そっからリヨンまで1台。順調にリヨンのユース8時着。
同室の日本人にフラン借りて、宿代9F払う。
ついでに風邪薬もらって飲む。頭痛え。
9月28日 天気はいいがヒッチはぜんぜんだ。
ほんとフランスはヒッチだめ。
リヨンの町抜けるのに2時間以上歩って、やっとこさ、
ボルドーに向う国道まで来た。
若いアベックが停まったが、10分で降ろされた。
キスしながらイチャイチャ行きやがった。
乗っけてもらって文句は言えねえけど・・ヴァカめ。
道端でパン食って、2時から6時まで立った。
1台停まったが冷やかし。 やっとパリ行きのアベックが
停まったが5分で降ろされた。コマンタレバカヤロ。
ほんとフラ公め、しょうがねえ、もうユース戻ろ。
金払ってバスでユース戻って、食堂行ったら張り紙がある。
ぶどう狩りの募集? なんだ、ここでもやってんじゃんか。
1日45フラン、月200$は溜まるな。いいじゃん。
ここでやるかな。ヒッチだめだし、ここのがアテネに近い。
ボルドーまで列車87フランか・・・もうここでやろ。
ユースの伝言ボードに二人宛の伝言を日本語で書いた。
「ここでリヨンのぶどう狩り募集で行ってきます。
ボルドー行けなくてすいません」
二人ともまだ着かねえし、ひょっとしたらこれ見て
リヨンぶどう狩りに来るかもしんねえ。
9月29日 朝、食堂行ってぶどう狩りに応募した。
ユースカード、IDカード、パスポート見せて面接。
英語で聞いてもフランス語で答えるフラ公。
「いつからできる?」
きょうでも明日からでもいいよ、ヒマだしよ。
「7時に農園の人が来るから食堂に来な」
ばばあ、上野の手配師並みにアゴであしらいやがった。
お前、マフィアに入れる。
7時に食堂行ったら、長靴履いた兄ちゃんが受付。
名前言って1日45フランでサイン。今晩8時半出発。
話は早え。 こりゃよっぽど人手がほしいな。
8時半、ヒッピー5人とトラックの荷台に乗りこんだ。
夜の田舎道、ブンブン虫が飛ぶ、ケツは痛え。
イスラエル、ドイツ、アメ公二人、若いのばっかり。
マケーバ?イスラエルの女、20歳だって。
「あなた日本人でしょ。知ってるわ。私、キブツでも働いて
たのよ。労働は奉仕よ。働くの大好き」
あっそお、お前の人生観なんか聞きたくねえ。
ウーマンリブみてえなその態度はなんだ。
てめえが、日本人の何を知ってるってんだ、小娘め。
俺りゃ、働くのなんかでえっきれえだよ。へっへ
1時間弱で着いた。 街灯なんか無い。真っ暗一本道。
馬か牛か、鶏かほし草か、チーズか村中が臭え。
20分。塀に苔が生えてる石の家に着いた。
中は土間。木の柱だけ新しい。にわか作りだな。
50畳はある食堂に全員集合で飯。先着出稼ぎ組20人は居る。
男も女も子供まで、こりゃ農繁期の田植えと一緒だ。
こ汚ねえ長テーブルの長椅子に座らされて、若い衆が
スープとパンと枕みてえなチーズを配ってワインを開ける。
裸電球の下で集団晩飯。収容所だなこりゃ。
「はーい!注目!」
80キロはある、赤毛で頬の血管浮き出たおばちゃん。
横の若いのはツバメか。 女が仕切るぶどう狩り。
「さあみんな!食べながら聞いてよ。明日から畑よ。
7時15分朝飯。昼飯は12時からここで食べる。いいわね」
いいもなにも、しょうがねえよ。
「これはカッターよ。 一人ひとつ配るから失くさないでね。
じゃあ、みんなのぶどう畑に乾杯」
はてなマークみてえな、このカッターで葡萄の蔓切るってわけか。
日本とは全然、木も違う。
2時間もダラダラ晩飯食って、やっとヤサ決め。
名前呼ばれて3人部屋にアメ公とダッチと一緒になった。
石作りの、窓もねえ10畳くらいのブタ箱。
壁際に木のベッド。 アメ公があきれて笑ってる。
シャワーは天井に水道管、映画のアウシュビッツ並み。
便所は真っ暗な道の向こう。うんこしたらバケツで水流せ、
使った紙は箱に捨てろ。なんてえ国だ。
だだっ広い便所の中には、ほし草、長靴、農具、犬も居る。
なんなんだ・・・こりゃ1ケ月ももたねえな。あ~あ
9月30日 ぶどう狩り初日。
「カンカンカン! カンカンカン!」
長靴男が木のトンカチでドア叩いてやがる。
6時半、起きろだ。各国の出稼ぎだから言葉より音で起こす。
そんで、無理やり朝飯。顔洗って着替えたら、
便所行くヒマもなくトラックに乗せられた。
マケーバが荷台で口紅塗ってやがる。あほかお前は。
お見合いじゃねえぞ。泥まみれ汗まみれの葡萄狩りだぞ。
ドでかい畑。 地平線に朝陽、こりゃ怒りの葡萄だ。
奄美のタルみてえな背負い子を肩から掛けて、中腰んなって
刈る。俺ん家の田舎の葡萄畑は、棚だったけどここじゃあ
下から生えてるフラ公式。
腰が痛えし煙草も休憩もダメ。ただ刈る、刈る、刈る。
ゴム手袋はもう紫色。ジーパンはぶどう汁でごわごわ。
日曜で地元の女達が10人くらい手伝いに来てるって。
俺等より早くから畑に来てるらしい。
ん?化粧の匂いだ。おねえちゃんが居るぞ。うっしっし。
アメ公と隣の列に入って、匂いの元を探す。
あいつだ、あそこにいる金髪の、おーバルタンか?
か-わいいね。あとで遊ぼうぜ。
籠が一杯になったら、トラックへ持ってって、せ~の。
荷台の兄ちゃんに渡し、幌が敷いてある荷台にザーッと
開ける。 そんで、兄ちゃんが葡萄を足で踏んずける。
それがホースで下のバケツに溜まる。4回往復で昼飯。
トラックで食堂へ戻って、昼飯腹一杯食ってワイン飲んで、
30分昼寝。 そんで2時からまた畑行って、刈る刈る。
6時に終わって収容所食堂で晩飯。
アメ公と一緒にシルビーの前に座った。
テキサス訛りのフランス語でアメ公がシルビーに
「学生なの?」
「ううん、学生じゃないの」
って、英語だ。しかも恥ずかしそうに嬉しそうに微笑む。
白い頬が日に焼けてちょっとした差し紅みたい。美しい。
17くらいか。フラ公でもこんな奥ゆかしい娘が居たのか。
リヨンの地元の娘で、ヒマな女はこの時期3か所農家回って、
ぶどう狩りを手伝う野が習慣だって。
シルビー、ここは明日までだって。
そうか、じゃあ食ったら外出ようぜ。
シルビーとアメ公と俺。外でワイン。星は満天。
化粧しない田舎娘は世界一可愛い。
うひょおーいいね。フラ公見直したぜえ。はっは
10月1日 7時半の朝飯食って畑。
シルビーの居る列は遠い。アメ公と移動しようとしたが、
そのまま昼飯の時間になっちゃった。
食堂行ったら、シルビーは帰ったって。
なーんだ。シルビーのブロックは今日で終りなんだ。
この農園も今日で終わりだって。なんだよ二日だけか。
ワインくらって水のシャワーで寝た。あ~シルビ~
目が覚めたら光る湖。ちょっとした王様気分。へへ
今まで、優雅な旅なんてなかったが、ヨーロッパ最後の旅に
このホテルとは上出来だ。
今朝、工藤氏がイビサ島に発った。
バルセロナに行った時、島の名前は聞いたことがある。
いいとこだろうな。暖ったかいしさ・・・
ヤスシ君とその空いた部屋に移って、久々風呂入って洗濯。
豪華なホテルの、ゆっくりゆったりは気持ちいい。
ここはホテルだと思ってたら、長期滞在の半年貸しだって。
飯付750スイスフラン。しかしこういう所よく探すよ。
やっぱりヒッピーは鼻が効く。
ヤスシ君も広瀬さんもここで皿洗いのバイトをしてる。
でも日本人5人、順番待ち。
言葉もあって、なかなかレギュラーとれねえって。
NYと同じだ。稼げる仕事は簡単じゃねえ。
NYと違うのは、ヤサも飯も最高だしのんびりしてる。
このまま居着いちゃう感じだ。っひっひ
こりゃ早いとこアテネに飛ぶかな。
夜は、猪狩さんがホテルの残り物でチーズの旨いもん作って
きてくれて晩飯。美味え。そりゃ材料は逸品だもんな。
ごっそさんです。
9月22日 窓からは雪のアルプス。湖は霞んで肌寒い。
思わず人生を想っちゃう景色。
・・・ここのバイト、俺の入るスキマはねえ。
金は100フラン。アテネまでのエアーにゃ足りねえ。
さ、どうすっか・・・とりあえずビール飲んで・・・。
広瀬さんと飯田さんが来週ボルドー行くって。
フランスでぶどう狩りだって。
10月1カ月だけ、1日で40フラン稼げる?
いいじゃん!アゴ付きヤサ付き、ワインも付いて。
おもしれえ・・のるか・・・のった。俺も行く。
9月23日小雨。日曜でレストランも居酒屋も休み。
もらったラーメン食って、家や友達に絵葉書書く。
フランスのボルドーにぶどう狩り行くって言ったって、
なんのこったかわかんねえだろな・・・
9月24日 ロンドンから頼んでおいた荷物が届いた。
中近東インドの本と、切手に風呂敷き、五円玉。
中学同僚のアメリカ留学経験のある三間に頼んでおいた。
あと2・3日遅れたらアウトだった。ありがとさん。
9月25日 夕方まで読破して俺のインドノートができた。
ルートと宿押さえて、あとは現地のヒッピー情報だ。
外は霧雨。10サンチーム賭けてナポレオン、
6時間もやって10サンチ-ムの負け。俺に博才は無い。
9月26日 いよいよ明日出稼ぎぶどう狩り、ボルドーだ。
手紙書いて荷造りして金勘定して、風呂入って寝た。
9月27日 朝8時。
猪狩さん、籾山君、ヤスシ君、色々お世話んなりました。
出稼ぎ終わったらまた来ます。
そん時きゃまたよろしく、お元気で。
広瀬さん飯田さんと久しぶりのヒッチ。でも三人はきつい。
ボルドーユースで落ち合おうことにして、俺が先に停めた。
じゃあ、ボルドーで会いましょう。
1台でローザンヌ、また1台でジュネーブまで行った。
そっからリヨンまで1台。順調にリヨンのユース8時着。
同室の日本人にフラン借りて、宿代9F払う。
ついでに風邪薬もらって飲む。頭痛え。
9月28日 天気はいいがヒッチはぜんぜんだ。
ほんとフランスはヒッチだめ。
リヨンの町抜けるのに2時間以上歩って、やっとこさ、
ボルドーに向う国道まで来た。
若いアベックが停まったが、10分で降ろされた。
キスしながらイチャイチャ行きやがった。
乗っけてもらって文句は言えねえけど・・ヴァカめ。
道端でパン食って、2時から6時まで立った。
1台停まったが冷やかし。 やっとパリ行きのアベックが
停まったが5分で降ろされた。コマンタレバカヤロ。
ほんとフラ公め、しょうがねえ、もうユース戻ろ。
金払ってバスでユース戻って、食堂行ったら張り紙がある。
ぶどう狩りの募集? なんだ、ここでもやってんじゃんか。
1日45フラン、月200$は溜まるな。いいじゃん。
ここでやるかな。ヒッチだめだし、ここのがアテネに近い。
ボルドーまで列車87フランか・・・もうここでやろ。
ユースの伝言ボードに二人宛の伝言を日本語で書いた。
「ここでリヨンのぶどう狩り募集で行ってきます。
ボルドー行けなくてすいません」
二人ともまだ着かねえし、ひょっとしたらこれ見て
リヨンぶどう狩りに来るかもしんねえ。
9月29日 朝、食堂行ってぶどう狩りに応募した。
ユースカード、IDカード、パスポート見せて面接。
英語で聞いてもフランス語で答えるフラ公。
「いつからできる?」
きょうでも明日からでもいいよ、ヒマだしよ。
「7時に農園の人が来るから食堂に来な」
ばばあ、上野の手配師並みにアゴであしらいやがった。
お前、マフィアに入れる。
7時に食堂行ったら、長靴履いた兄ちゃんが受付。
名前言って1日45フランでサイン。今晩8時半出発。
話は早え。 こりゃよっぽど人手がほしいな。
8時半、ヒッピー5人とトラックの荷台に乗りこんだ。
夜の田舎道、ブンブン虫が飛ぶ、ケツは痛え。
イスラエル、ドイツ、アメ公二人、若いのばっかり。
マケーバ?イスラエルの女、20歳だって。
「あなた日本人でしょ。知ってるわ。私、キブツでも働いて
たのよ。労働は奉仕よ。働くの大好き」
あっそお、お前の人生観なんか聞きたくねえ。
ウーマンリブみてえなその態度はなんだ。
てめえが、日本人の何を知ってるってんだ、小娘め。
俺りゃ、働くのなんかでえっきれえだよ。へっへ
1時間弱で着いた。 街灯なんか無い。真っ暗一本道。
馬か牛か、鶏かほし草か、チーズか村中が臭え。
20分。塀に苔が生えてる石の家に着いた。
中は土間。木の柱だけ新しい。にわか作りだな。
50畳はある食堂に全員集合で飯。先着出稼ぎ組20人は居る。
男も女も子供まで、こりゃ農繁期の田植えと一緒だ。
こ汚ねえ長テーブルの長椅子に座らされて、若い衆が
スープとパンと枕みてえなチーズを配ってワインを開ける。
裸電球の下で集団晩飯。収容所だなこりゃ。
「はーい!注目!」
80キロはある、赤毛で頬の血管浮き出たおばちゃん。
横の若いのはツバメか。 女が仕切るぶどう狩り。
「さあみんな!食べながら聞いてよ。明日から畑よ。
7時15分朝飯。昼飯は12時からここで食べる。いいわね」
いいもなにも、しょうがねえよ。
「これはカッターよ。 一人ひとつ配るから失くさないでね。
じゃあ、みんなのぶどう畑に乾杯」
はてなマークみてえな、このカッターで葡萄の蔓切るってわけか。
日本とは全然、木も違う。
2時間もダラダラ晩飯食って、やっとヤサ決め。
名前呼ばれて3人部屋にアメ公とダッチと一緒になった。
石作りの、窓もねえ10畳くらいのブタ箱。
壁際に木のベッド。 アメ公があきれて笑ってる。
シャワーは天井に水道管、映画のアウシュビッツ並み。
便所は真っ暗な道の向こう。うんこしたらバケツで水流せ、
使った紙は箱に捨てろ。なんてえ国だ。
だだっ広い便所の中には、ほし草、長靴、農具、犬も居る。
なんなんだ・・・こりゃ1ケ月ももたねえな。あ~あ
9月30日 ぶどう狩り初日。
「カンカンカン! カンカンカン!」
長靴男が木のトンカチでドア叩いてやがる。
6時半、起きろだ。各国の出稼ぎだから言葉より音で起こす。
そんで、無理やり朝飯。顔洗って着替えたら、
便所行くヒマもなくトラックに乗せられた。
マケーバが荷台で口紅塗ってやがる。あほかお前は。
お見合いじゃねえぞ。泥まみれ汗まみれの葡萄狩りだぞ。
ドでかい畑。 地平線に朝陽、こりゃ怒りの葡萄だ。
奄美のタルみてえな背負い子を肩から掛けて、中腰んなって
刈る。俺ん家の田舎の葡萄畑は、棚だったけどここじゃあ
下から生えてるフラ公式。
腰が痛えし煙草も休憩もダメ。ただ刈る、刈る、刈る。
ゴム手袋はもう紫色。ジーパンはぶどう汁でごわごわ。
日曜で地元の女達が10人くらい手伝いに来てるって。
俺等より早くから畑に来てるらしい。
ん?化粧の匂いだ。おねえちゃんが居るぞ。うっしっし。
アメ公と隣の列に入って、匂いの元を探す。
あいつだ、あそこにいる金髪の、おーバルタンか?
か-わいいね。あとで遊ぼうぜ。
籠が一杯になったら、トラックへ持ってって、せ~の。
荷台の兄ちゃんに渡し、幌が敷いてある荷台にザーッと
開ける。 そんで、兄ちゃんが葡萄を足で踏んずける。
それがホースで下のバケツに溜まる。4回往復で昼飯。
トラックで食堂へ戻って、昼飯腹一杯食ってワイン飲んで、
30分昼寝。 そんで2時からまた畑行って、刈る刈る。
6時に終わって収容所食堂で晩飯。
アメ公と一緒にシルビーの前に座った。
テキサス訛りのフランス語でアメ公がシルビーに
「学生なの?」
「ううん、学生じゃないの」
って、英語だ。しかも恥ずかしそうに嬉しそうに微笑む。
白い頬が日に焼けてちょっとした差し紅みたい。美しい。
17くらいか。フラ公でもこんな奥ゆかしい娘が居たのか。
リヨンの地元の娘で、ヒマな女はこの時期3か所農家回って、
ぶどう狩りを手伝う野が習慣だって。
シルビー、ここは明日までだって。
そうか、じゃあ食ったら外出ようぜ。
シルビーとアメ公と俺。外でワイン。星は満天。
化粧しない田舎娘は世界一可愛い。
うひょおーいいね。フラ公見直したぜえ。はっは
10月1日 7時半の朝飯食って畑。
シルビーの居る列は遠い。アメ公と移動しようとしたが、
そのまま昼飯の時間になっちゃった。
食堂行ったら、シルビーは帰ったって。
なーんだ。シルビーのブロックは今日で終りなんだ。
この農園も今日で終わりだって。なんだよ二日だけか。
ワインくらって水のシャワーで寝た。あ~シルビ~