印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年11月1日 きょうは晴れた。
もう11月か。早いな・・・。
フランスぶどう狩りで、ちょこっと貯めたし。
一旦、スイスでゆっくり体休めてインドの支度だ。
と思ってたが、この辺の日本人も最近は厳しいらしい。
仕事も減るし、ビザや言葉を口実にクビんなったり、
ヒマだから休めっていわれるって。
物価は高いし、1か月仕事あふれたら死活問題だ。
仕事探してる間にオケラんなっちまう。
俺もでかい面して居候できねえってわけだ。
じゃ、早めに旅の準備にかかるか。
ヌシャテルの学生オフィスにフライト探しに行く。
11月になったし、もうフライトも安くなったろ。
こんちわー! ドア開けたらドキッ。
ショートヘアーに黄色のセーター。ちょっとそばかす。
笑顔の素敵な八頭身の大学生。こりゃ、さい先いいぞ。
あのさ、アテネまで安いのある?
「あら、今夜の便があるけどもう締切ね。残念ね。
次の学割便は・・・1週間後よ」 ニコッ
そうか・・・このまま帰るのはもったいねえ。
じゃあさ、なんかほかのエアーある?
青い大きな眼で俺の眼見て、書類に目を落とす。
パツキンかき分ける白い手、頬なんか透き通って・・・。
おっ! 肘ついた・・・時計のブレスだ。スイス製だろな。
お嬢かな。可愛い娘は何つけても嫌味がねえ。
「ねえ、スイスエアーはどう?」
かーっ! 唇とんがった。たまらなく・・・可愛い。
こうなったら世界中のエアー聞いてやんぞ。ひっひ
「55%ディスカウントで明後日の便よ」 ニコッ
いいね、そんでいくら?
「ええと・・・これは、286フランね」
う~ん、いいじゃん・・・じゃねえ、そりゃ高いよ。
「ウフッ そうね。私、春にアテネに飛んだ時、
190だったわ。これじゃちょっと高いわね」
へえ、アテネ行ったのか。また行かねえか、一緒にさ。
ところで名前なんてえの?
「エリーヌよ。フレンチスイスなの」
いい名前だね。フレンチはヤだけどフレンチスイスは大好きだ。
ちゃんと英語喋るもんね。ねっ、エリーヌ!
「うふっ 私のおじいちゃんはイタリア人だから、本当は
イタリアンスイスがあってるかもね」ニコッ
おっ、そーだよセニョリーナ。そっちのがいい。
それの方が似会うよ、エリーヌちゃん。
君みたいな素敵なさ・・・って、やってたら
奥から太いばばあの事務員が鬼の面で出てきた。ちきしょう。
「はい。チャーター便なら170フランです」
エリーヌ、急にマジんなっちゃった。
こらばばあ、なんの権利があって俺等の幸せを・・・。
しょうがねえ。12日の便を予約した。え?切符は郵送?
じゃあ、もうエリーヌに会えねえってことじゃん。
キスマークつけてモンマリンに送ってくれよ。じゃあね。
つかの間だったけど俺にゃ最高の餞別になった。
グラーチェだエリーヌ。
帰りにモンマリン寄って山下さんにチケット届くからって頼んだ。
エリーヌの話したら、今度行ってみるって。
現物見たらびっくりしますよ。
俺、中近東計画なかったら毎日通いますよ。うっひっひ
山下さんの部屋に、お袋から手紙来てた。
中近東インドはお袋には内緒にしてたが、そうもいかねえ。
行くよって返事書いた。
部屋にあった先月の朝日新聞と週刊文春を見る。
イスラエルとアラブ、紛争再発。
バンコクで学生市街戦。へえ・・・。
半年前の平凡パンチと音楽専科をもらった。
山下さんありがとね。夕方コフランに帰った。
コフランとヌシャテル。田舎のわりにゃあ立派な列車。
でも1時間に1本しか来ねえ。 軍人が結構乗ってる。
永世中立国って軍隊があるんだ。知らなかったぜ。
11月3日 居候だし文句は言えねえけど寒い。
さあ、残金175フラン。ドルが210チェックが800。
アテネ発つまであと10日か。贅沢はできねえな。
日記帳、写真フィルム、スティックや土産を荷造りした。
11月6日 起きたらまた雪。寒いはずだ。
小降りを見計らって出掛けて、郵便局で荷物送った。
なんと8.6フラン。バカ高だぜ、船便なのに。
昼、近所のガキが遊びに来た。
「ねえ、ねえきょうはさ、すごいの作ってあげるよ雪でさ」
こないだ雪の時、雪合戦したガキんちょ。
もうすっかりダチ公気分だ。
小学校3年と4年だって。じゃ、ちょっとやるか。
やすし君も入って真っ白の丘で転げまわる。
さすが雪国スイスの子。雪の遊びは何でも知ってる。
天使、家、飛行機を雪で器用に作る。うまいもんだ。
田舎の子は幸せだね、世界中同じだ。
無邪気で人見知りしない。
そろそろ帰ろって言ったら、俺等の部屋に行きたいって。
10分もしねえうちに部屋来た。
二人ともアコーディオン抱えてる。これを自慢したかったんだ。
すごいね!それ。
「うん。誕生日にお父さんが買ってくれたんだ。お父さんは
アコーディオンすごく上手いよ。今教わってるんだ」
得意そうに嬉しそうに話す。
じゃ、1曲演ってくれよ。
「はい。じゃ二人で演るね」
哀愁のメロディー、民謡かな。なかなか沁みるメロディ。
ハモったりカラんだり上手いもんだ。ヤーヤーブラボー
ところで俺も元バンドマン。ちょっと教えてくれよ。
「はい、はい、僕が教えてあげる。こっちの手はここで
・・空気をこうして・・・ここは押さえて」
おおこれか、音が出たぞ。すげえ。
子供の誕生日にアコーディオン買ってやる親父。
スイスってそういう国、そういう文化。うらやましい。
じゃあ坊主たち、また遊そぼうな。
そういやあ、そろそろチケットが届いてる頃だ。
山下さんとこ行ったらまだ寝てた。
「よう、風呂入っていけよ」
いつも優しいね。風呂もらってエアーチケット受け取って、
昼飯までゴチになった。
色々お世話んなりました。明後日アテネ発って中近東入ります。
「ああ。気をつけてな。特に水、気をつけてな。
ニューデリーの大使館宛てに手紙書くよ」
ありがとうございます。山下さんもお元気で。
11月11日 快晴!すげえ、絶好の門出日和じゃん。
モンブランの山並光って、これが最後のヨーロッパだ。
最後の荷物点検。パイプリュックはギリシャで売って、
あとは寝袋と肩掛けバッグひとつで行く。
金と薬さえあればOKだ。TCは手製の米袋、現金はポケット。
カバンにゃいれねえ。こちとら、トーシローじゃねえ。へへ
ケツの薬は、広瀬さんにひさや大黒堂もらったし。へへ
よっし、ペキカン! 明日はアテネだ。ゆっくり眠るべ zzz
もう11月か。早いな・・・。
フランスぶどう狩りで、ちょこっと貯めたし。
一旦、スイスでゆっくり体休めてインドの支度だ。
と思ってたが、この辺の日本人も最近は厳しいらしい。
仕事も減るし、ビザや言葉を口実にクビんなったり、
ヒマだから休めっていわれるって。
物価は高いし、1か月仕事あふれたら死活問題だ。
仕事探してる間にオケラんなっちまう。
俺もでかい面して居候できねえってわけだ。
じゃ、早めに旅の準備にかかるか。
ヌシャテルの学生オフィスにフライト探しに行く。
11月になったし、もうフライトも安くなったろ。
こんちわー! ドア開けたらドキッ。
ショートヘアーに黄色のセーター。ちょっとそばかす。
笑顔の素敵な八頭身の大学生。こりゃ、さい先いいぞ。
あのさ、アテネまで安いのある?
「あら、今夜の便があるけどもう締切ね。残念ね。
次の学割便は・・・1週間後よ」 ニコッ
そうか・・・このまま帰るのはもったいねえ。
じゃあさ、なんかほかのエアーある?
青い大きな眼で俺の眼見て、書類に目を落とす。
パツキンかき分ける白い手、頬なんか透き通って・・・。
おっ! 肘ついた・・・時計のブレスだ。スイス製だろな。
お嬢かな。可愛い娘は何つけても嫌味がねえ。
「ねえ、スイスエアーはどう?」
かーっ! 唇とんがった。たまらなく・・・可愛い。
こうなったら世界中のエアー聞いてやんぞ。ひっひ
「55%ディスカウントで明後日の便よ」 ニコッ
いいね、そんでいくら?
「ええと・・・これは、286フランね」
う~ん、いいじゃん・・・じゃねえ、そりゃ高いよ。
「ウフッ そうね。私、春にアテネに飛んだ時、
190だったわ。これじゃちょっと高いわね」
へえ、アテネ行ったのか。また行かねえか、一緒にさ。
ところで名前なんてえの?
「エリーヌよ。フレンチスイスなの」
いい名前だね。フレンチはヤだけどフレンチスイスは大好きだ。
ちゃんと英語喋るもんね。ねっ、エリーヌ!
「うふっ 私のおじいちゃんはイタリア人だから、本当は
イタリアンスイスがあってるかもね」ニコッ
おっ、そーだよセニョリーナ。そっちのがいい。
それの方が似会うよ、エリーヌちゃん。
君みたいな素敵なさ・・・って、やってたら
奥から太いばばあの事務員が鬼の面で出てきた。ちきしょう。
「はい。チャーター便なら170フランです」
エリーヌ、急にマジんなっちゃった。
こらばばあ、なんの権利があって俺等の幸せを・・・。
しょうがねえ。12日の便を予約した。え?切符は郵送?
じゃあ、もうエリーヌに会えねえってことじゃん。
キスマークつけてモンマリンに送ってくれよ。じゃあね。
つかの間だったけど俺にゃ最高の餞別になった。
グラーチェだエリーヌ。
帰りにモンマリン寄って山下さんにチケット届くからって頼んだ。
エリーヌの話したら、今度行ってみるって。
現物見たらびっくりしますよ。
俺、中近東計画なかったら毎日通いますよ。うっひっひ
山下さんの部屋に、お袋から手紙来てた。
中近東インドはお袋には内緒にしてたが、そうもいかねえ。
行くよって返事書いた。
部屋にあった先月の朝日新聞と週刊文春を見る。
イスラエルとアラブ、紛争再発。
バンコクで学生市街戦。へえ・・・。
半年前の平凡パンチと音楽専科をもらった。
山下さんありがとね。夕方コフランに帰った。
コフランとヌシャテル。田舎のわりにゃあ立派な列車。
でも1時間に1本しか来ねえ。 軍人が結構乗ってる。
永世中立国って軍隊があるんだ。知らなかったぜ。
11月3日 居候だし文句は言えねえけど寒い。
さあ、残金175フラン。ドルが210チェックが800。
アテネ発つまであと10日か。贅沢はできねえな。
日記帳、写真フィルム、スティックや土産を荷造りした。
11月6日 起きたらまた雪。寒いはずだ。
小降りを見計らって出掛けて、郵便局で荷物送った。
なんと8.6フラン。バカ高だぜ、船便なのに。
昼、近所のガキが遊びに来た。
「ねえ、ねえきょうはさ、すごいの作ってあげるよ雪でさ」
こないだ雪の時、雪合戦したガキんちょ。
もうすっかりダチ公気分だ。
小学校3年と4年だって。じゃ、ちょっとやるか。
やすし君も入って真っ白の丘で転げまわる。
さすが雪国スイスの子。雪の遊びは何でも知ってる。
天使、家、飛行機を雪で器用に作る。うまいもんだ。
田舎の子は幸せだね、世界中同じだ。
無邪気で人見知りしない。
そろそろ帰ろって言ったら、俺等の部屋に行きたいって。
10分もしねえうちに部屋来た。
二人ともアコーディオン抱えてる。これを自慢したかったんだ。
すごいね!それ。
「うん。誕生日にお父さんが買ってくれたんだ。お父さんは
アコーディオンすごく上手いよ。今教わってるんだ」
得意そうに嬉しそうに話す。
じゃ、1曲演ってくれよ。
「はい。じゃ二人で演るね」
哀愁のメロディー、民謡かな。なかなか沁みるメロディ。
ハモったりカラんだり上手いもんだ。ヤーヤーブラボー
ところで俺も元バンドマン。ちょっと教えてくれよ。
「はい、はい、僕が教えてあげる。こっちの手はここで
・・空気をこうして・・・ここは押さえて」
おおこれか、音が出たぞ。すげえ。
子供の誕生日にアコーディオン買ってやる親父。
スイスってそういう国、そういう文化。うらやましい。
じゃあ坊主たち、また遊そぼうな。
そういやあ、そろそろチケットが届いてる頃だ。
山下さんとこ行ったらまだ寝てた。
「よう、風呂入っていけよ」
いつも優しいね。風呂もらってエアーチケット受け取って、
昼飯までゴチになった。
色々お世話んなりました。明後日アテネ発って中近東入ります。
「ああ。気をつけてな。特に水、気をつけてな。
ニューデリーの大使館宛てに手紙書くよ」
ありがとうございます。山下さんもお元気で。
11月11日 快晴!すげえ、絶好の門出日和じゃん。
モンブランの山並光って、これが最後のヨーロッパだ。
最後の荷物点検。パイプリュックはギリシャで売って、
あとは寝袋と肩掛けバッグひとつで行く。
金と薬さえあればOKだ。TCは手製の米袋、現金はポケット。
カバンにゃいれねえ。こちとら、トーシローじゃねえ。へへ
ケツの薬は、広瀬さんにひさや大黒堂もらったし。へへ
よっし、ペキカン! 明日はアテネだ。ゆっくり眠るべ zzz