印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年11月17日 いい天気だ。
ホテル前の道に座ってアメ公と朝のチャイ。

日差し強く空気はきれい、空はでかい。
ヨーロッパよりゃ貧しいけど、車もねえし人も悪くねえ。

いいとこだなって話してたら、バスが通った。
埃がブアーッと舞い上がる。おわっー
スティーブと顔見合わせて大笑い。ぶおっほっほ
埃っぽい道は中近東のシンボルだ。ひっひ

奴はボストン生まれのハタチ、俺より二つ下。 
中近東二回目でインドも行った、草大好きヒッピーの典型。

ベトナム反戦だってピースサインでデモって、中近東来て
ラリってりゃ世話ねえな。

ところで、トルコ、噂ほどヤバクねえな。

「トルコはまだOKだ。この先からがヤバイんだ」

おお、そうか。

「神に祈れば許されるって感じだ。中近東なんでもありだ」

そうかよ。盗人はいねえみたいだが、夜は停電多いしな。
ま、お互い死なねえように、インドでまた会おうぜ。


さ、アフガン買ったし、きょうはイスタンまでの切符買う。

広場の向かいのバス事務所へ行く。

シチサン眼鏡のおっさん、ニヤッとしてやがる。
まじめそうな外見に、ずるがしこそうな面、油断できねえ。
 
あの、イスタンまでいくら?

「はい、70リラです」

バカ言ってんじゃねえ!俺の情報じゃ40だ40。

「はい、学割は45リラです」 

じゃ、いらねえ。

「ちょっと待って、ほかの店は休みです」

なんだよ、立ち上がって。いいよ明日ほかで買うわ。

「わかった、40でいいです」 お前、なんなんだよ。
 

バスは値切れって、大将も言ってた。まだねばるか。

おやじ、そりゃ相場だろ、40は相場。35にしてくれ。

「それはできません」 

あっそ。じゃあ、帰るわ。

「ちょっと待って。・・・それジタンですか?」

おお、よく知ってんな。スイスジタンだ、旨いよ。 
でも新品はやれねえよ。この残りやるから35にしろよ。
まだ10本くらいあるぞ。

「ひっひ、火がつけられません」 

ほっほお、てめえ。言ってくれるじゃねえか。
トルコにゃマッチはねえのか!ゴーツクじじいめ。
思った通りだ。真面目な外見野郎は油断できねえ。

もうやるもんねーよ。ヴァッカメ

「ジタンOK。35」 

ったく、なんちゅうじじいだ。切符よこせ。
 
節正さーん、もらった煙草役に立ちました。ありがと。
イスタンまで、35で切符買いましたよー。


バスは夜7時15分発。明日の朝8時にイスタン着。
しかし、12時間は長え。

そんで、6時半にバス停行ったがバスがいねえ。 
騙しやがったか、と思ってたらバスが来た。
通りの向こう側で先客乗っけてた。 

屋根は荷物満載、人も乗ってあふれかえってる。
床には米俵くらいのオレンジの袋、網棚はニワトリと
ガキが寝てる。通路はばばあが座ってる。

俺りゃどこ座るんだ! 
 
運転手が偉そうにおやじドヤシつけておやじは通路に移った。
一番奥の席が空いて、俺にそこに座れって顎で言いやがる。

髭のおやじに挟まれて・・・出発。


バスん中、ものすげえ匂い。今まで嗅いだことがない匂い。 
荷物だか着るもんだか、体臭だか屁だか糞だか。

・・これじゃまるで動物園じゃねえか。寄ってくんなよ。

ハンカチ口に巻いて、寝た。あーあ


途中何度か停まった。休憩やションベンじゃねえ。
お祈りだ、アラーだ。ごくろうさんだ。

外出て地面に風呂敷敷いて、頭地面につけて。寒いのに。


11月18日 朝8時。埃まみれでイスタン着。おお寒みい
昨日買ったアフガン着込んで、バスターミナルで熱いチャイ。

ここはイズミールと全然違う。魚と香辛料か町中臭っせえ。
ダッツン、ベンツもトヨタもリキシャも走ってる。



沖中士、漁師、ベールの女、トルコ帽のおっさん、
スーツ野郎、裸足の子供、雑多滅多ヤタラなんでもありの街。

橋のたもとに屋台の絵葉書屋がある。はがきでも出すか。

アラビアンナイト風の派手なの5枚。切手は貼ってある。
隣にポストもある。 こりゃ便利、日本も見習え。
 
道端に座り込んで書く。はがきはスイス以来。
ロンドン、雄二、浜口、元気かよ 俺ついに中近東来たぜ。


さて宿探し、「イスタンはスルタナメッドに行け」

乗合ミニバスで10分。3リラは只乗りした。
車掌がいるわけでもねし・・・1食分だ。

ヒッピー情報「ホテルグングールに泊れ」

ホテル探して歩くと、ガキ等、おっさんおばさん、馬・牛、
じいさんばあさん等が、道端で立ち止まってジロジロ。
ほんとトルコはじっと見が好きだな。

おっ、あった、ここだ。また緑の看板か、緑はヒッピーか。 

意外ときれいなドミトリー。でも1泊8リラは高っけえ。
イズミールの10倍だぞ。こりゃ物価もヤバイな。

でも大事な情報収集所だし、変な所泊ったら命はねえ。
 
フロント、10時まで開かねえって。しょうがねえ。 
日曜で店はみんな休み。中近東だけどまだ欧米習慣の国だ。

屋台でチャイ飲んで一服。またじろじろ見やがる。
節操がねえなお前等。このエビ茶のアフガンか?
日本人めずらしいか?なんか狙ってんのか? 

ガキが集まってきた。金くれタバコくれって。
まだ小学生じゃねえか。法律もしつけもねえな。
トモダチとサヨナラとバカだけ知ってやがる。ひでえ国。


10時、ホテルチェックイン。
部屋はそこそこ、便所もヤバクない。日本人7人いる。
アテネからエアーで来た奴、チュニスから来た奴、
南米から回った奴、みんなインド目指す奴等だ。

4.5人で飯屋行ってケバブ食ってビール飲んでダベる。 

インドはどこがいいとか、ヤバイ国境、かつあげのイミグレ
安くていい宿とか最新情報を交換する。


トプカピ宮殿行こうぜって、結構有名らしい。  
丘登って汗かいて、アフガンなんか着てらんねえ。

歩って歩って、門に着いた。暑い。

おお!なかなかじゃん。こりゃアルハンブラと似てるな。

「ここの、この門が・・」みんな歴史よく知ってるね。

夕方、ホテル戻って宴会。
味付け海苔や即席ラーメン持ってる奴がいる。マメだな。

アテネで会った大阪野郎が声かけてきた。
車でカルカッタまで行く日本人三人組に、便乗して行くって。 
うまくやったな浪速野郎め。

そんで、インドでその車買うから二人でインドまわろうぜって。
じゃ12月15日にカルカッタのJALで会おうぜ。
生きてたらな。ひっひ 

晩飯は日本人御用達の居酒屋。日本人は御用達が得意。
おやじも手際いい。メニューは聞かねえ。 
ビール飲んで魚入りパエリャにケバブ。話がはずむ。 

お前さ、スチーム行った? 

なによスチームって。

トルコブロよ。変な風呂じゃないよ。一回行ってみな面白いぜ。

へえ、話のタネだ。ユースのシャワーよりゃましだろ。
飯のあと一人でブラっと行ってみた。


おおすんげえ! モスク並みのドでかい建物じゃん。

建物全部、中まで大理石。 モノホンだ、ものすげえ。

蒸気と湯気で向こうが見えねえ。
百人は楽に入れるサウナ御殿。客は地元のおっさん達。
日本人は俺ひとりだ。金玉だけは守っておこう。

レスラー並みのおやじが声掛けてきた。モーホか?

「5リラだ。やるか?」 

手に汚ったねえ手ぬぐい巻きつけて、ふんどし一丁の髭野郎。

へっ、冗談じゃねえ。お前に揉まれたら半殺しにされるわ。
 
でかい大理石の上で垢すりやられて、腕捻られて顔ひんまげて
背中真っ赤にして擦ってもらってるおやじども。

サド、マゾ、モーホ、体臭と香辛料の中近東的怪奇蒸気御殿。

ムヒエー!グヒエー!汗が滝、鼻の奥カラカラ、たまんねえ。

湯壺に飛び込む。ウッ、水じゃねえか。隣がお湯か。
その隣はぬるま湯、50mプールくらいのもある。

もうこの先、風呂も入れねえかもな・・・ゆっくりすっか
・・臭えけど熱い大理石が気持ちいい・・・。

・・・寝ちまった。ゆでタコ寸前1時間。風呂最長記録。

 
ふにゃふにゃでユース帰って、ぐーったり。

手も足もふにゃふにゃヘロヘロ。気んもちいい~最高。 
ツーケも快調。ビール飲んで・・・もうダメ

あれ? 壁に日本語の落書き。大将もここに泊ったのかあ!

大将、俺も来たぜイスタン 行ってきたぜトルコブロ~

むひぇええ もうダメだあ・・・睡いこまれるぞお~・・・。



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