印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年11月25日
地獄列車の4泊5日。古くて遅くて臭え3等列車。
しかも12時間遅れとはなんなんだ。無茶苦茶だ。
ニワトリ、オレンジ、ズタ袋。おっさんばばあと喧嘩して
固いケバブにぬるいチャイ、手足伸ばせずちぢこまり、
おいらは閉所恐怖症。もう笑うしかねえ・・・
雪の砂漠と岩山抜けて、湖渡って国境入りゃ、
ラクダの商隊、朝日に夕陽、絵になる景色もよくよく見れば
緑もなけりゃ石ころだらけ、人間の住むとこじゃねえ。
雪が降ろうが槍が降ろうが、時間になったら礼拝アラー。
列車止まって寒い中、風呂敷敷いて膝まづく。
俺等はその間待ちぼうけ。
そんで、お祈りの後。これがちょっとした見もの。
男連中が、コソコソと石や枯れ草の陰に移動する。
そんで、片膝を立てる・・・散弾銃でも打つのか。
違う・・きじうちだ。ションベンだションベン。
こいつ等、立ちションはしねえ。男の座りションベン。
初めて見たぞ。へっへ、所変わればションベンも変わる。
イランテヘランいざ行かん。
そんなこんなで夜10時。ついに到着。
やーっと着いたぞ! くそったれ。
おお、結構な駅じゃんか。一応ビルがある、車も走ってる。
暗いけど、まあまあ都会だ。
さて、ヒッピー情報は「テヘランはアミールカビールに泊れ」
アメ公とタクシーに乗る。ラジオからはシタールが流れる。
中近東のイキフンじゃん。
クッション無し、メーター無し、交渉で30リアル。
15分乗って、監獄の中庭みてえな所についた。
真っ暗だぞ、電気はねえのか。
団地みてえなドヤだな。上のテラスから声。
「いよお!おーい!久しぶり 来たな」
お、グングールで会った奴等だ。
おー!やーっと着いたぜえ。
部屋に入って、とりあえず風呂ある? 頭痒くてさ。
「温水シャワー使い放題、ストーブ燃やし放題だぜ」
うおー助かったあ。
石鹸使ってお湯シャワー、5日ぶりにツンパ取り替えて、
すっきりしゃっきり、さあ晩飯だ。
中庭にドラム缶ドーンと2台置いて。横のバケツのガソリン
ジャンジャンかけて、ジャンジャン燃やす、一晩中燃やす。
油は腐るほどあるってわけだ。
明かりがねえから照明にもなる。
ドラム缶囲んで、じゃあ乾杯だ! 地ビールを飲む。
日本人5人と泊まり客のアメ公カナ公。
ぷはー 生き返えるぜ。ケバブとチーズ飯をたらふく食う。
「アテネで会った浪速野郎さ、水あたって寝込んでる」
「アフガン北周りは今行けないよ。ゲリラが増えて今、道は
ストップだ。カイバル峠越える南周りしかない」
「ここのハッシュは高いだけ、質は悪いし効かねえ」
「アフガンはアフガニよりドルが全然強い。両替は無駄」
「まともな居酒屋一軒だけ、あした行こうぜ」
情報集結だ。さすがヒッピーの宿、アミールカビール。
でもベッドは満員、床に寝た。列車よりゃましだ。おやすみ。
11月26日 8時起きた。
おっ、部屋、洗面所、テラス、廊下、庭。
そこらじゅうでドラム缶が真っ赤に燃えてる。
さっすがオイルの国、贅沢三昧だな。
日本人がひとり発ったんでその部屋へ移る。
1泊85リアル。昨日は床寝で50だって、高えな。
オイルで儲けてる割にゃあ、足元見てやがるな、ったく。
朝飯は屋台でケバブとオレンジにチャイで8リアル。
駅や宿や大使館の場所、率のいい両替屋、旨い飯屋、
安いバザール、やばいバス、やばいイミグレ。
ビール飲みながら情報交換や旅の話、これが大事。
昼から外務省行ってビザの書き換え、これも大事。
イスタンで取ったパキスタンへのビザをアフガンに変更する。
イスタンじゃアフガンのビザが下りねえ。
理由はわからねえが、どうせビザ代ふんだくりだろ。
ビザもおりねえアフガン陸路、やばそうだ。
そこで死んだら、日本に通知も行かねえって。げえ・・。
寒い中、埃っぽい道をひとり歩いて外務省に行く。
「日本大使館のレターが必要です」
なにい!? そんなこたあ聞いてねえぞ。
相手は役人、言いだしたらきかねえ。ガキと一緒だ。
しょうがねえ、日本大使館行って訳を話した。
「そういう職員もいるんですよ。とくに長髪ヒッピーは
嫌われるの。モスリムではね」
気の毒顔でおばちゃん、タダで英文タイプしてくれた。
「気をつけてね」 ありがとさん、おばちゃんもな。
外務省に引き返して提出。OKだが1ドルとられた。
夕方、岡本君とバザールをぶらつく。
若い男はジーパンもいる。ねえちゃんはほとんどモンペ。
おばちゃん達は黒のサリーの裾引きずって土埃あげて歩く。
物価はアテネ並。食い物はまずい。
食えるのはこのバターライスとケバブくらい。
食いもんはアテネ、石油はイランの勝ちか。
夕方から停電ばっかし。ロウソク立てるのは店屋だけ。
皆慣れたもんだ、夜光虫並み。
さあ、飯食ったし帰ろ。
6時、急に寒くなってきた。酒でも飲むか。
みんなで例の居酒屋へ。20分歩ってタベルナ風の小屋。
まるでマドリの奇跡の家だな。しかしよく見つけるよ。
「おおートモダチ コンバンワ」
ひげに帽子、愛想よくて日本語堪能。
にこにこしながらふんだくる。
自分の店みてえに席につく。俺等7人座ったら満席。
「おやじ いつものやつな」 いつものやつ?
こりゃドブロクみてえだが酒か?酒の匂いもしねえぞ。
そんでこりゃなんだラクダの肉か?
「その通り!」
うっへえ、ラクダ食うのかよ。
「この辺じゃ、年食ったラクダ食用で安く売ってるってさ」
へえ、固くて旨くもねえな。
安い地ビールガンガン飲んで、酔っぱらうしかねえ。
締めて40リアル?どうせ地元の倍だろ。ばっかやろ。
「ところで やるか?」 うん? ああここでかよ?
「おお全然問題ない」 じゃやろうぜ。持ってんの?
「はーい、どうぞ」 チョコレートを取り出した。
テーブルに銀紙おいて「クソ」を炙る。
匂いで一発でわかるぜ、でもOK、おやじも知らん顔。
パイプで一服・・・なんだこれ、湿気てんじゃねえの。
全然効かねえぞ。 そうか10リアルだしな。うっへ
そりゃ混ぜもんだろ。牛の糞入り、本もんのシットか。
「しょうがねえ、仕上げは草だな」なんでも持ってる。
3本作って回す ・・・っふっふっふ・・・むっひっひ
・・・くえっけっけ・・・絶妙のタイミングで停電。
ロウソクが点いた。壁にぼおっと日本語の落書き。
・・・いい具合になってきたぞ。
卵焼きと味噌汁が・・・レコード盤のうえにラクダが走って、
風呂入って・・うーん・・・なかなかいいガンヂャだ。
「じゃ、行くか?」 どこよ?
「あそこ、あそこよ」おお行くか・・・さっぱりわかんねえ。
メガネ野郎がついてこいって。ああ、女郎屋か。
どう歩いたか川の側のバラック小屋に着いた。
昔から女郎屋は川の側か。ぐっひっひ
裸足のガキが手を出す。何もやるもんねえよ。
「バカ」って逃げやがった。このガキゃ、ったく。
小屋の外に10人ほど客が待ってる。中年から若いのまで。
椅子座ってラジオ聞いてる奴もいる。
50人は居るぞ。順番待ちか、こりゃほんとの公衆便所だな。
くわえ煙草で女将が出て来た。
「ジャポン? チノ? コリア?」
皺だらけの赤毛。若い時きゃまあまあだった、かも知れねえが。
「3ドルならすぐやれるよ」 3ドル?バカっ高えよ。
「じゃ並びな。1ドルだよ」
汚ねえ絨毯開けて女が出てきた。暗くてよく見えねえ・・・
月明かりで・・・あっ
ぎょええー! お前妖怪だぞ、ヨーカイ。ぐええー。
ツンパだかボロ切れだか着けて、口紅だけ真っ赤、あと真っ黒。
おい帰ろうぜ。
イスタンのコレラ接種じゃねえぞ。
あん時きゃ針使い回し、ここじゃ○―○○使いまわしか。
しかし、ここがペルシャのあのアラビアンナイトのあの国かよ。
わかんねえもんだなあ~ あ~あ。
地獄列車の4泊5日。古くて遅くて臭え3等列車。
しかも12時間遅れとはなんなんだ。無茶苦茶だ。
ニワトリ、オレンジ、ズタ袋。おっさんばばあと喧嘩して
固いケバブにぬるいチャイ、手足伸ばせずちぢこまり、
おいらは閉所恐怖症。もう笑うしかねえ・・・
雪の砂漠と岩山抜けて、湖渡って国境入りゃ、
ラクダの商隊、朝日に夕陽、絵になる景色もよくよく見れば
緑もなけりゃ石ころだらけ、人間の住むとこじゃねえ。
雪が降ろうが槍が降ろうが、時間になったら礼拝アラー。
列車止まって寒い中、風呂敷敷いて膝まづく。
俺等はその間待ちぼうけ。
そんで、お祈りの後。これがちょっとした見もの。
男連中が、コソコソと石や枯れ草の陰に移動する。
そんで、片膝を立てる・・・散弾銃でも打つのか。
違う・・きじうちだ。ションベンだションベン。
こいつ等、立ちションはしねえ。男の座りションベン。
初めて見たぞ。へっへ、所変わればションベンも変わる。
イランテヘランいざ行かん。
そんなこんなで夜10時。ついに到着。
やーっと着いたぞ! くそったれ。
おお、結構な駅じゃんか。一応ビルがある、車も走ってる。
暗いけど、まあまあ都会だ。
さて、ヒッピー情報は「テヘランはアミールカビールに泊れ」
アメ公とタクシーに乗る。ラジオからはシタールが流れる。
中近東のイキフンじゃん。
クッション無し、メーター無し、交渉で30リアル。
15分乗って、監獄の中庭みてえな所についた。
真っ暗だぞ、電気はねえのか。
団地みてえなドヤだな。上のテラスから声。
「いよお!おーい!久しぶり 来たな」
お、グングールで会った奴等だ。
おー!やーっと着いたぜえ。
部屋に入って、とりあえず風呂ある? 頭痒くてさ。
「温水シャワー使い放題、ストーブ燃やし放題だぜ」
うおー助かったあ。
石鹸使ってお湯シャワー、5日ぶりにツンパ取り替えて、
すっきりしゃっきり、さあ晩飯だ。
中庭にドラム缶ドーンと2台置いて。横のバケツのガソリン
ジャンジャンかけて、ジャンジャン燃やす、一晩中燃やす。
油は腐るほどあるってわけだ。
明かりがねえから照明にもなる。
ドラム缶囲んで、じゃあ乾杯だ! 地ビールを飲む。
日本人5人と泊まり客のアメ公カナ公。
ぷはー 生き返えるぜ。ケバブとチーズ飯をたらふく食う。
「アテネで会った浪速野郎さ、水あたって寝込んでる」
「アフガン北周りは今行けないよ。ゲリラが増えて今、道は
ストップだ。カイバル峠越える南周りしかない」
「ここのハッシュは高いだけ、質は悪いし効かねえ」
「アフガンはアフガニよりドルが全然強い。両替は無駄」
「まともな居酒屋一軒だけ、あした行こうぜ」
情報集結だ。さすがヒッピーの宿、アミールカビール。
でもベッドは満員、床に寝た。列車よりゃましだ。おやすみ。
11月26日 8時起きた。
おっ、部屋、洗面所、テラス、廊下、庭。
そこらじゅうでドラム缶が真っ赤に燃えてる。
さっすがオイルの国、贅沢三昧だな。
日本人がひとり発ったんでその部屋へ移る。
1泊85リアル。昨日は床寝で50だって、高えな。
オイルで儲けてる割にゃあ、足元見てやがるな、ったく。
朝飯は屋台でケバブとオレンジにチャイで8リアル。
駅や宿や大使館の場所、率のいい両替屋、旨い飯屋、
安いバザール、やばいバス、やばいイミグレ。
ビール飲みながら情報交換や旅の話、これが大事。
昼から外務省行ってビザの書き換え、これも大事。
イスタンで取ったパキスタンへのビザをアフガンに変更する。
イスタンじゃアフガンのビザが下りねえ。
理由はわからねえが、どうせビザ代ふんだくりだろ。
ビザもおりねえアフガン陸路、やばそうだ。
そこで死んだら、日本に通知も行かねえって。げえ・・。
寒い中、埃っぽい道をひとり歩いて外務省に行く。
「日本大使館のレターが必要です」
なにい!? そんなこたあ聞いてねえぞ。
相手は役人、言いだしたらきかねえ。ガキと一緒だ。
しょうがねえ、日本大使館行って訳を話した。
「そういう職員もいるんですよ。とくに長髪ヒッピーは
嫌われるの。モスリムではね」
気の毒顔でおばちゃん、タダで英文タイプしてくれた。
「気をつけてね」 ありがとさん、おばちゃんもな。
外務省に引き返して提出。OKだが1ドルとられた。
夕方、岡本君とバザールをぶらつく。
若い男はジーパンもいる。ねえちゃんはほとんどモンペ。
おばちゃん達は黒のサリーの裾引きずって土埃あげて歩く。
物価はアテネ並。食い物はまずい。
食えるのはこのバターライスとケバブくらい。
食いもんはアテネ、石油はイランの勝ちか。
夕方から停電ばっかし。ロウソク立てるのは店屋だけ。
皆慣れたもんだ、夜光虫並み。
さあ、飯食ったし帰ろ。
6時、急に寒くなってきた。酒でも飲むか。
みんなで例の居酒屋へ。20分歩ってタベルナ風の小屋。
まるでマドリの奇跡の家だな。しかしよく見つけるよ。
「おおートモダチ コンバンワ」
ひげに帽子、愛想よくて日本語堪能。
にこにこしながらふんだくる。
自分の店みてえに席につく。俺等7人座ったら満席。
「おやじ いつものやつな」 いつものやつ?
こりゃドブロクみてえだが酒か?酒の匂いもしねえぞ。
そんでこりゃなんだラクダの肉か?
「その通り!」
うっへえ、ラクダ食うのかよ。
「この辺じゃ、年食ったラクダ食用で安く売ってるってさ」
へえ、固くて旨くもねえな。
安い地ビールガンガン飲んで、酔っぱらうしかねえ。
締めて40リアル?どうせ地元の倍だろ。ばっかやろ。
「ところで やるか?」 うん? ああここでかよ?
「おお全然問題ない」 じゃやろうぜ。持ってんの?
「はーい、どうぞ」 チョコレートを取り出した。
テーブルに銀紙おいて「クソ」を炙る。
匂いで一発でわかるぜ、でもOK、おやじも知らん顔。
パイプで一服・・・なんだこれ、湿気てんじゃねえの。
全然効かねえぞ。 そうか10リアルだしな。うっへ
そりゃ混ぜもんだろ。牛の糞入り、本もんのシットか。
「しょうがねえ、仕上げは草だな」なんでも持ってる。
3本作って回す ・・・っふっふっふ・・・むっひっひ
・・・くえっけっけ・・・絶妙のタイミングで停電。
ロウソクが点いた。壁にぼおっと日本語の落書き。
・・・いい具合になってきたぞ。
卵焼きと味噌汁が・・・レコード盤のうえにラクダが走って、
風呂入って・・うーん・・・なかなかいいガンヂャだ。
「じゃ、行くか?」 どこよ?
「あそこ、あそこよ」おお行くか・・・さっぱりわかんねえ。
メガネ野郎がついてこいって。ああ、女郎屋か。
どう歩いたか川の側のバラック小屋に着いた。
昔から女郎屋は川の側か。ぐっひっひ
裸足のガキが手を出す。何もやるもんねえよ。
「バカ」って逃げやがった。このガキゃ、ったく。
小屋の外に10人ほど客が待ってる。中年から若いのまで。
椅子座ってラジオ聞いてる奴もいる。
50人は居るぞ。順番待ちか、こりゃほんとの公衆便所だな。
くわえ煙草で女将が出て来た。
「ジャポン? チノ? コリア?」
皺だらけの赤毛。若い時きゃまあまあだった、かも知れねえが。
「3ドルならすぐやれるよ」 3ドル?バカっ高えよ。
「じゃ並びな。1ドルだよ」
汚ねえ絨毯開けて女が出てきた。暗くてよく見えねえ・・・
月明かりで・・・あっ
ぎょええー! お前妖怪だぞ、ヨーカイ。ぐええー。
ツンパだかボロ切れだか着けて、口紅だけ真っ赤、あと真っ黒。
おい帰ろうぜ。
イスタンのコレラ接種じゃねえぞ。
あん時きゃ針使い回し、ここじゃ○―○○使いまわしか。
しかし、ここがペルシャのあのアラビアンナイトのあの国かよ。
わかんねえもんだなあ~ あ~あ。