印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月13日 う~ん、久々ゆっくり眠れた。
ノミもいねえし、ゆっくりぐっすりたっぷり寝た。

さ、朝飯食ってきょうこそインドだ。
列車は夜9時45分。 よし、寝るべ。
まだ体完全じゃねえし。寝て食って寝て、寝まくった。

夜8時。 ラホール駅に9時に行ったら発車寸前。 
お前等、時計ねえのか。時刻表関係ねえのか!

相変わらずの3等豚箱地獄。座ったら動けねえ。
そんでこの匂い。この臭いだけは慣れない。

アメ公が極上持ってた。 よし、やるか。



寝袋で網棚に寝て、ラリるレロ・・・。


夜中、インド国境で止った。

兵隊3人乗りこんで車中でパスコントロール。
俺等らりってんぞ。1時間かかったが無事終了、よかった。

ま、ついにインド入ったってことだ。寝るかzzz

朝6時。 網棚ベッドで体痛え。
人かき分けて便所へ。外の空気吸わしてくれ、たまんねえ。

連結で深呼吸、ふーっ。


お、日が昇ったか。暖ったけえ、おおお!
緑だ! 森だ、川だ。 生き物の匂いだ。文明だ。

国境越えたらこれか。ぜーんぜん違う国じゃん。信じらんねえ。 
しかも夏並み、暑い。

うーーん、これがインドか。これだよこれだぜ、これだろ。

きゃっほお! インド入ったぞー!!


昼頃、アムリッツアー駅に到着。

ビュッフェで飯。皆は北へ行く。
ウオルター、フィリップ、ビリー ここでお別れだ。

住所交換、握手。元気でな。
みんないい奴だった。死ぬなよ。

また一人旅だ。気合入れていくか。

アフガン脱いでTシャツ一丁。
コントロールオフィス行って列車学割取る。8ルピー。

目指すはデリー。 おーい大将、北士、とっつあん、熊さん、
飯田さーん、広瀬さーん、モロちゃん、プリンス、宮原さーん!

俺もついに来たぞ!インドー!!


1時。 デッパーツ!
中年のアメ公アベックと一緒にデリー行きに乗り込む。
まるで戦時中の疎開列車、民族大移動だ・・・知らねえけど。

ターバンの山、列車の屋根にも居る。満車率400%。

3等。例によって鶏は鳴く、荷物満載、人満載の豚箱。
でも気分が違う。寒くねえし、豚箱列車にも慣れた。

前の席に70は超えてそうなターバンのじいさん。 
うまそうに煙草吸い始めた。

茶色の葉っぱで巻いた、2Bより細い太目の爪楊枝風。
インド煙草のビリーだ。5本で1ルピーの安煙草。

じいさん、一服吸うごとに掌に灰をのせる・・へえ
インド人礼儀正しいじゃん。と、思ったらそうじゃねえ。
吸い終わったその灰を舐め始めた。

くっ、ほんとかよ。灰も無駄にしないインドじじい。

アメ公も黙ってねえ「じいさん その灰旨いか?」 

身振り手振りでやっとわかったか、アメ公に掌出した。
アメ公、ペロっと指舐めて爺の掌から灰を舐めた。

Ohh my my ・・うっは!

そうか、うっはか。じゃあ俺もご相伴にあずかろ。
おーっひっひ、うめえわけねえ、煙草の灰だ。
でも吐くほどじゃねえ。漢方薬だと思えば食える。

っはっは、うーっひっひ。アメ公と大笑い。
じじいも大笑いして1本くれた。ナマステ。


7時、駅に着いた。

あっオールドデリーだったか。ま、いいやニューデリー近いし。

バザールだらけ。ここも活気がある。駅前はごった返す人。

客引きのでかい声。来やがった。
タクシー運ちゃん、10人は居る。大歓迎だ。

「ニューデリーのケスリホテルまで いくらで行く?」

15ルピーから始まってすぐ8ルピー。

っへ、なめんなよ。俺はお前らのカモんなる観光客じゃねえ。
キモ入り、ジャパニーズヒッピーだ。

3ルピーで行けよ。

おやじ等、けんか腰で目むいてる。こっちもけんか腰。 
5ルピーから落とさねえ。ほお、やっぱりインドか、しぶといな。

・・・しょうがねえ、じゃあ、あいだ取って4だ。
4ルピー。これ以上払えねえよ。どうだおやじ。

一番軟そうな、押しのなさそなおやじに決まった。
タクシーのドア叩いて俺等を呼ぶ。よし4ルピーだぞ。 

「アチャー チャーチャー」 ほおイエスはチャーか。
奄美もチャー、島言葉はサンスクリットだったか。
インド洋から東シナ海まで世界は狭い。っほっほ。


花、仏像、お経、象の絵、仏陀、お香、小銭、写真 
あるだけ飾って貼っ付けて。タクシー車内は花盛り。

「ジャパン ナンバルワン」 おやじ英語しゃべるか。
「アイ・・アイ ライク ジャパン」 おやじ必死だ。

なんとか5にしようって、お世辞おべんちゃら嘘八百。 
涙ぐましいが、悪いな、4ルピーで決めただろ。
それに俺等はヒッピーだ、余計な金はねえ。

30分も乗った。もっと近いと思ってた。
4ルピーじゃ嫌がるわけだ。でも4は4、ナマステ。達者でな。

ケスリホテル。 鉄パイプに白ペンキのベッド10台。 
ブラウニーの残り食ってとりあえず寝た。


12月14日 昼まで寝てた。まだ本調子じゃねえ。



お湯シャワー完備? そりゃ言い過ぎだ。
無料のお湯が一つ穴からちょろちょろ出るだけ。 
でもインド初のシャワー。 まあまあいい気分。

天気いいし、町に出てみる。
バナナ8本1ルピー、食いながら歩く。 

道は舗装工事中、トヨタも走ってる、馬車もリキシャも、
オート三輪もいる。中近東より生活は上。

男も女もサンダル。靴履いてるのは上流階級だけか。
チョイと横道入るとガラッと変わる。

ぬかるみの道に牛が陣取って寝てる。
牛の糞、裸足の子、乞食、犬、猫。

バクシーシって言いながらガキが手出す。
ハエよりしつこいバクシーシ。
さっきから10分、ずっとついてくる。

裸足でパンツ一丁、痩せこけてねだる眼がたまんねえ。
しょうがねえ、1ルピーくれてやった ・・これが失敗だった。

道端から10人位出て来やがった。可哀そうだがもうやれねえ。
悪りいな。あっち行ってくれ。頼む、あっち行ってあっち・・

ほかんとこ行けよ。うっせえぞ、このガキゃあ!

・・・散ったガキども。こんな国かよ・・・。

ガキに大声ださなきゃならねえ。なんともやーな気分。 
こりゃこの先インド中で・・・憂鬱だ。思いやられる。


インディアンゲイトから引き返しコンノート広場の学生オフィス。

日本までのチケット調べてみた。カルカッタ→羽田が320$。

日本帰る気半分、ロンドン帰る気半分だが、
あの地獄の下痢以来弱気になった。


オフィスのおやじ、えらく日本贔屓。だめもとで話すか。

実はよ、おやじ。パキスタン国境で500ルピー取られたんだ。
税関役人がポケット入れたんだ。なんとかならねえか。

「よし、役人知ってるから話してやる」って、
話半分でも頼もしいじゃん。名前書いて置いてきた。よろしく。


ホテル帰ったら日本人ヒッピーがひとり居た。
奴もギリシャから入って、2回目の中近東。
やっぱり水にやられたって。ネパールもすげえぜって。

よし、明日ネパールビザ申請しよ。

夜、庭でチャイ飲みながら久々にゆっくり星を見る。

ん? 外がやかましい。泣いたりわめいたり、なんだ。
 
フロントの兄ちゃんが来た「手術の失敗で死んだ」

ええ、簡単に言うなよ 死んだ?

「おじさん死んだ」

へえ、信じらんねえ。なんかインド、やばい気配。


おおお 久しぶり!元気だった?

10時頃、4人組がホテルに来た。皆痩せてた、無理もねえ。 
ほんと、タフすぎる道のりだ。

俺が見たとおり、やっぱり国境で車無理やり捨てさせられて、
おまけに500ルピーとられたって。

2時まで話し込んで草で宴会。

インドもすごいが、インド目指す奴等が面白い。

俺もそのひとり。 ひっひ うっはっは




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