兄貴がミカエルになるとき
翌日のニュースペーパーのファッション欄はシェリルの記事で埋まり、そのほとんどがシャイラの写真を大きく載せていた。


「『シェリルのミューズがついに私たちの前に現れる』だって」
JFKエアポートへと向かうタクシーの中、トオ兄は読んでいたニュースペーパーを「ほら」と、私に差し出した。

ショーが延長されたために、本当なら2日間あったはずのニューヨークでの中休みが消えた。

昨日3日目のショーを終え、私たちは次の撮影のためにハワイに向かっていた。

「トオ兄、もういいよ……」

車に乗り込んでからトオ兄は何度も何度も記事を読み返し、ニヤニヤしている。

夜遊びによる寝不足で、はれぼったい目をサングラスで隠したママも、ニューヨーク・タイムズのファッション欄を開いたまま「いいじゃない、かっこいいじゃない、素敵じゃない」と、シャイラの写真に見入っている。

咲季に戻った状態で、シャイラの姿を見るのは赤面するほど恥ずかしい。

紙面でポーズを決めている写真なんてまともに見られない。

もう少し時間が経てば、人ごとみたいに眺めることができるのだろうけど。


JFKに着くやいなや、トオ兄はブックストアでニューヨーク・タイムズをさらに5部、ママも3部買って機内に乗り込んだ。

見せびらかせる人もいないのに、そんなに買ってどうするんだろう。


ハワイまでは直行便でも10時間。ニューヨークでは映画を見る時間もなかったから、機内で2本は映画を見て機内食を食べたら着いちゃうね」と楽しみにしてたのに、映画どころか食事のメニューを見る間もなく着いてしまった。

ショーでの極度の緊張感と疲労で、離陸間もなく爆睡してしまったようだ。
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