兄貴がミカエルになるとき
朝の8時。パーキングから係りの人が車を持ってきてくれるのをホテルの前で待っていた。

昨晩露店で8ドルのシンプルな花柄の青いアロハシャツにバミューダパンツ、サンダル姿のトオ兄は、地味にまとめたにもかかわらず、誰よりも目立っている。

ホテルを出入りする日本人の観光客は、何者かとトオ兄の顔をチェックしていく。

「良く似合ってるね」
青いアロハシャツを指差した。

「そうか? これ着たらハワイの人になった気分で快適だ。郷に入れば郷に従えだな。で、どこに行こうか?」

「モンキーポッドの木とパイナップル畑が見たい」

「ベタだが、ま、いっか。ショッピングセンターで買い物したいと言われたら却下しようと思っていたが、さすが感覚が今どきの女子離れしている。褒美にレインボー・カフェでプレートランチを奢ってやる」

それって女子離れしている褒美? 
まったく、いつもけなされているのか褒められているのかわからないけど、毎度のことだからいちいち気にしてはいられない。

「プレートランチって何?」

「皿にご飯とおかずが乗ってるロコフード。」

あまりにざっくりした説明なので、どんなものかまったくわからない。

本当にどうでもいいと思っていることにはあからさまにどこまでも適当だ。

おかずとご飯がお皿に乗っていようが、どんぶりに入っていようが、どちらでも構わないけど、肝心なのは何が乗ってるのかっていうことで、そのロコフードのおかずっていったいどんなものなのさ、と長い質問を心の中で組み立ててみたけど、隣で気持ちよさそうに背伸びをしている姿を見たら、どうでもよくなった。

ま、いっか。きっと美味しいんだろう。
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