兄貴がミカエルになるとき
広々とした店内を見渡しながら、トオ兄は「ふーん、なるほどね」とつぶやいている。

「咲季、この店に寄った理由がわかるか?」

「トオ兄が見たかったからでしょ」

「それ以外には?」

「わからない」

「わからない⁉ その注意力の乏しさはさすがだな」

いちいち褒め言葉を添えて人を馬鹿にするのはやめてほしい。

「ここは昨日まで撮影していたブランドのショップだ」

へっ?

振り返って入り口のガラスの扉を改めてチェックすると、『LOCO SPIRIT』というブランド名が入っていた。

店内を見渡せばボードにもウェアにも『LOCO SPIRIT』のロゴが入っている。

「ほんとだ。でも自分で言うのもなんだけど、この明るい、いかにもハワイ的なイメージと私って、合わなくない?」

「だよな。俺もちょっと違うよなって思っていたんだよ。でも、このクリーンで明るいブルーの中にお前という濃紺をぽつんとたらす。すると、陽気な明るいブルーにちょっとした陰影が出て、意味深なブルーに変化する……か、」

いいね。確かにいいかもしれないと、トオ兄は一人嬉しそうにフロアを歩き回り始めた。

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