兄貴がミカエルになるとき
「明るく爽やかに弾けてるだけじゃつまらないもんな。ここの社長が明るさの中に少し影を加えたイメージにしたいと言って、お前を選んだ理由がわかったよ」

影? で、私? わからない。まったくわからない。

「明らかにミスキャスティングだよ。私に影ないし」

「あるよ。お前は澄んでいるけど透明じゃない。クリアブルーじゃなくてかすかな影をまとった青、シアンじゃなくて北斎の海のようなプラシアンブルー、太平洋じゃなくて日本海ってとこか。無垢なのに秘密がありそうで、澄んでいながら影がある。だからみんなボーっとしているお前に不思議と惹かれるんだろうな。すごいな、お前、モデルの才能は別として、才能があるやつを惹きつける才能があるのかも」

意味がわからないけど、またもやまわりくどい嫌味だろう。

私だってまだ大したモデルではないという自覚くらいは持っている。

キャリアは浅いし、特にモデルを目指して勉強を積んできたわけでもない。

アマアマなのもボーっとしているのもわかっている。

必死でモデル業を頑張っているかと聞かれれば、ほかの人より必死じゃないかもしれない。

でも、自分なりに頑張っている。

クライアントからの評判だって最近ではすこぶるよいと、ママもご機嫌だったではないか。

それなのにマネージャーでもあるトオ兄にこんな風に言われると、ムッとする。

< 163 / 307 >

この作品をシェア

pagetop