兄貴がミカエルになるとき
「咲季がサーフィンしてみたいっていうんだけど、もしよければ教えてやってくれないかな。といっても僕たちは明後日に帰国するから明日しか時間がないんだけど」

英語力の低い私でも、「咲季がサーフィンをしたい」「教えてくれ」という部分くらいは理解でき、突然のトオ兄の勝手な申し出に焦ったのはダーリンではなく、私だった。

サーフィンをやりたいなんて言ったことは一度もないし、それどころか昨日の撮影だって、ボードを抱えるのがやっとでサーフィンのセンスがないことを認識したばかりだというのに。

何事も、センスのない人間にものを教えることほど大変なことはない。

私のドンくさい様子にあきれて、ダーリンの優しい笑顔が歪むのを見るのはとても耐えられない。

けれどダーリンはハワイのホスピタリティ満点の笑顔を浮かべてあっさり「OK」と承諾してしまう。

ああ、ダーリン、ダメだったら……。

さらに「咲季と一緒にサーフィンができるなんて楽しみだ」、なんていう言葉でまた私の心をひょいっと掴んでいった。


まずい、完全にフォーリンラブ・イン・ハワイ状態だ、私。

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