聖魔の想い人
タリアは小さくため息をこぼし剣を抱えなおして、再び外に目をやった時、表通りを数人の衛兵が通りかかった。

いや、それ自体は別に特に不審がる要素は何もないのだが、気になったのは、彼らがカダの衛兵だということだ。

全員ルアン式の衣を着ているが、あの剣はカダのものだ。ルアンの剣が細身なのに対し、カダの物は少し横幅が広いのだ。

タリアは彼らがさりげなく周囲に目を向けつつ、通りを歩いて行くのを見送り、そっ、と雨戸を閉めた。





シンは賑やかな街だった。道行く人々はみんなそれなりに裕福そうで、街は活気が満ちあふれている。

ユゼルとその仲間たちは主の命をうけ、ある少年を追ってルアンにやって来ていた。昨晩、他の衛兵たちが見失い、今日未明、カダとルアンの関所をこえたという情報がはいった少年だ。

関所を越えた時少年は女性と一緒だったという。国境を越えた者は、たいていシンにやって来るということから、ユゼルたちもここにやって来たというわけだ。

他の仲間たちが休憩している時に、何故かユゼルひとりが捜索に街へと追いやられた。そろそろ腹が空いてきた上に収穫はなし。

最悪としか言い様がない。

彼の、まだ若い顔が徹夜明けのせいで少し疲れたような表情になっている。ほとんど感情を表に出さないのだが、任務に任務が重なり、徹夜も重なったとなれば話は別だった。
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