聖魔の想い人
タリアが唇をかんだ時、がくん、とラファルの体が沈んだ。石に足をとられたのだ。

彼の腕を掴んでいたタリアの体勢が崩れた時、

「……!!」

うなじにピリッと、鳥肌がたった。タリアは咄嗟に、地面に座り込んだままのラファルを自身の体で庇いながらふせた。頭上を、長めの矢が通りすぎた。

今のけとで、眠気などふっとんでしまったらしいラファルに、「じっとしてな」と囁いて、タリアは動きの邪魔になる荷を投げ捨てた。

相手は多くて三人ということは確認している。一人は弓矢を使う後方支援だということは、もう二人は恐らく前に出て戦う剣士や槍使いだろう。

そう思い、タリアが鞘から長剣を抜いたのと、二つの月光にきらめくものが見えたのは、ほぼ同時だった。

大柄な影と細身の影が、間合いをつめてきた。キィン、と金属と金属がぶつかる高い音が闇に響いた時には、タリアの剣は相手の剣をはじいた反動を利用し、左脇から切り込んで来たルアン式の剣を使う男ーユゼルの剣をはじいていた。

タリアは、どんなに強くとも女だ。力ではどうしても男に負ける。それを知っているタリアは、力ではなく、速さと柔軟さで勝負した。

タリアの体は幼い頃からの訓練の賜物で、旅芸人にもそうそういないほど柔軟でしなやかだった。
< 21 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop