聖魔の想い人
タリアはしかし、深手をおったからといって、怯んだり弱気になったりはしなかった。

起き上がったその瞬間にすぐに足のつま先に力をこめ、オウノの眉間を剣の柄で打った。オウノはそれに気付き、半歩下がって避けようとした。

が、避けきれなかった。

眉間は外したものの、眉間のすぐ下を硬い柄で力いっぱい打たれて、すぐに視界が暗転する。

オウノが倒れたのを音で確認し、タリアは身をひる返してユゼルへと攻撃の対象を変えた。右肩を切り裂かれて力が入りきらず、剣が上手く握れないユゼルは、あっけなくタリアに突き飛ばされた。

受け身をとろうとした時右肩に激痛が走り、受け身をとり損ねたユゼルは草地を転げ、道の脇にある川に落ちた。

水しぶきの音に紛れて何か風を切る音が聞こえるのを感じ、タリアは咄嗟に避けた。が、避けきれず、脇腹に鋭い痛みが走る。

それは、さっきも飛んできた矢だった。背後に大弓を構えた人影が見えた。

その人影が次の矢を引き絞っているのを見て、タリアはその場から一目散に駆け出した。さっき、ラファルが走って行った方へ。

これ以上、ここにいる理由はない。ラファルも逃げたし、一人は気絶させ、もう一人には深手を負わせた。

タリアが闇の中に消えるのを見届け、フェナは弓を下ろした。もともと、射るつもりはなかった。剣術に自信がない自分と、深手を負ったユゼルとでは、引き留めたって敵わない相手だと分かったからだ。
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