聖魔の想い人
山菜の味がしっかり染み込んだ鍋は、とても美味しかった。家に帰って来ると、イチが必ず作ってくれる。

切り裂かれ、イチに縫われた右腕を庇いながら、利き手と同じくらい力がついている左腕で箸を使って食べていると、湯気の立つ椀を持ったラファルが脇にやって来た。

「イチの山菜鍋は美味しいだろう」

「うん。こんな美味しいもの初めて食べる。イチは料理上手だ」

ラファルは笑って、美味しそうに山菜を箸で器用にすくって食べ始めた。

「何しろ、周りの連中が料理オンチなもんだからね」

自分も椀を持ってタリアの隣に座りながら、イチが言った。

「それには私も含まれているのか?」

「当然だろ。昔、お前が焼いていた魚、骨まで真っ黒だったじゃないか」

「今なら少しくらいできるよ」

「どうだかな。今度は骨まで跡形もなくなるんじゃないのか?」

タリアとイチの言い合いに、ラファルは可笑しそうに笑った。その明るい笑顔に、タリアは、彼が今までどれだけ緊張していたのかを改めて思い知った。

ー助けてあげられて、本当に良かった。

「二人は仲が良いんだな」

「まぁ、幼馴染みだからね」

「そうなの?どれくらい前から?」

「私があんたと同じくらいで、イチが七、八歳の時だっけ?」

「それくらいだな」
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