聖魔の想い人
「よくそんな腹に入るよな」

「仕方ないだろ。体がそう言う風になっちまってるんだから」

「それだけ食えりゃ、糸が抜けるの早くなるかもな」

布がかまれたタリアの腕や腹部に目をやり、イチが腰に手を当てる。ラファルが可笑しそうに笑った。ゆっくりと、タリアと、カダの林で出会う前から続いていた緊張がほぐれていくのを感じていた。

こんなにあたたかな食事は、産まれて初めてかもしれない。

「けど、イチの料理は美味しいな。全部あたたかくて湯気が立ってる」

「?湯気は料理なら全部立つだろ」

不思議そうにイチが言った。

「ううん。俺が今まで食べた料理は、みんな冷めてて、湯気なんて立たなかったよ」

更に不思議そうにしたイチの肩を、タリアはつつき、

「ちょっと…」

と言葉を濁した。

イチが、あぁ、と何かを察して頷き、ラファルに「向こうの相木から緑の箱を持ってきてくれ」と頼んだ。

ラファルが立ち上がり、小屋の反対側にある相木で言われた物を探し始めたのを見届け、イチはタリアに向き直った。

「あの子…もしかして、貴族の子なんじゃないだろうな」

ひそひそ、とタリアに訪ねる。

「私もそう思ったんだけどね。名前以外は何も話してくれないから」

「でも、追われてるのはお前ではなく、あの子なんだろう?」

「あぁ。せめて、その理由さえ分かれば…」
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