聖魔の想い人
「一緒に行ってもいいの?」

「おぉ。ひとりで行くのもいいが、人数がいても楽しいからな」

ラファルの顔が、ぱっ、と輝いた。


ー…本当に貴族の子なのだろうか。


その顔を見て、イチは考えた。確かに、毎日のように太陽の下で働く平民のように日焼けしてもいなければ、手も綺麗で豆ひとつない。

けれど、言葉に貴族訛りがなく、手も身体も平民の子には負けるだろうが非常に達者で、賢いし根性もある。こんな子が貴族といわれても、その内味を知ってしまえばにわかに信じられない。


ー…タリアの奴、また何か厄介事に巻き込まれてるんじゃないだろうな。


彼女は、自分でも気付かない内に面倒を背負っていることがある。けれど、それが子供の場合、そう簡単に切り捨てられないのがタリアだった。


ー強がっているだけ、か。


かつて、自分がタリアに言ったことを思い出し、イチはため息をついた。

自分で、そのことに気付いてないようだから怖いんだけど。

「ねぇ、イチ」

ラファルがイチの隣に来て話しかけた。

「ん?」

「あのね、俺、タリアにお願いしたいことがあるんだけど…」

「…うん」

「イチから、頼んでくれる?」

イチは、ラファルをじっ、と見つめ、何かを思案するような顔をしたが、やがて首を振った。

「いや…ラファルの願いなら、ラファルからちゃんと言った方がいいんじゃないかな」

「……」

「でないと、タリアは訊いてくれないよ」

ラファルはちょっと残念そうにしたけど、すぐに顔を上げた。

「うん、そうだね。ちゃんと頼んでみる」

イチは笑って、その頭を優しく撫でてやった。
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