聖魔の想い人
「そこまで!!」
その、空気すらわくような鋭い声に一瞬驚いたものの、タリアはかまわずラファルに駆け寄り、腕を掴んで引き寄せた。周りがやけに静かだった。
怯え切って、がくがく震えて今にも座り込みそうになりながら、嗚咽を堪えているラファルを背に回し、タリアは油断なく気配を探ったが、あの姿のない気配はいつの間にか消えていた。
まだ完全に警戒をとかず、タリアはもうひとつの気配の方へと目を向ける。林の藪の中から、ひとりの老婆が出てきているところだった。
「ローダ…師?」
イチが、驚きに目を見開いて言った。<大呪術師ローダ>の二つ名を持つこの老婆は、戻って来たと思ったらまたどこかへいってしまう。放浪癖のある老婆で、イチの養い親でもあった。
「何だい何だい、お前たち、向こうのもんに狙われるなんざ、一体何したんだね」
タリアとイチは顔を見合せる。
「まぁ、原因は分かってるけどね」
ふいっ、と目を細めて、ローダはタリアの脇でまだ青い顔をしているラファルに目を向けた。この老婆が現れた時から、じっ、と彼女を見ていたラファルは、いきなり見つめ返されて後ずさった。
「お前、カダの<一ノ宮の皇子>だね」
え、とタリアとイチは顔を見合わせた。そして、タリアの背後で恐怖に打ちのめされたように、翡翠色の瞳を見開き、肩を震わせていたラファルは、その瞳にきつい警戒の光が浮かぶ。
「…あなた、どこで、それを」
その、空気すらわくような鋭い声に一瞬驚いたものの、タリアはかまわずラファルに駆け寄り、腕を掴んで引き寄せた。周りがやけに静かだった。
怯え切って、がくがく震えて今にも座り込みそうになりながら、嗚咽を堪えているラファルを背に回し、タリアは油断なく気配を探ったが、あの姿のない気配はいつの間にか消えていた。
まだ完全に警戒をとかず、タリアはもうひとつの気配の方へと目を向ける。林の藪の中から、ひとりの老婆が出てきているところだった。
「ローダ…師?」
イチが、驚きに目を見開いて言った。<大呪術師ローダ>の二つ名を持つこの老婆は、戻って来たと思ったらまたどこかへいってしまう。放浪癖のある老婆で、イチの養い親でもあった。
「何だい何だい、お前たち、向こうのもんに狙われるなんざ、一体何したんだね」
タリアとイチは顔を見合せる。
「まぁ、原因は分かってるけどね」
ふいっ、と目を細めて、ローダはタリアの脇でまだ青い顔をしているラファルに目を向けた。この老婆が現れた時から、じっ、と彼女を見ていたラファルは、いきなり見つめ返されて後ずさった。
「お前、カダの<一ノ宮の皇子>だね」
え、とタリアとイチは顔を見合わせた。そして、タリアの背後で恐怖に打ちのめされたように、翡翠色の瞳を見開き、肩を震わせていたラファルは、その瞳にきつい警戒の光が浮かぶ。
「…あなた、どこで、それを」