聖魔の想い人
「ふん。それくらいの情報、知らないで大呪術師はやってられないね」

「でもローダ師、<一ノ宮ノ妃>様は、皇子ともども亡くなられたのでは?」

イチは、タリアが言いたかったことを先に言った。

「国民はそう思っとるらしいが、そんなもんに騙される程わしは老いちゃいないよ。この坊主が、その妃と一緒に<陰ノ宮>に隠れて住んでいたことも、ちゃあんと知ってる。あんたが想い人だってこともね」

ぴくっ、ラファルの体がこわばった。

「何ですか?その想い人ってのは」

タリアが訊くと、イチが気を遣って言った。

「長い話になりそうだから、小屋に入ってからにしよう。お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうや」

「おや、気がきくねぇ」

満足顔でにんまり笑って、ローダはまるで自分の家に向かうかのように、すたすたと足取りも軽くイチの家へ向かった。そのあとに、ラファルの腕をひいてタリアがついて行き、家の持ち主であるはずのイチがゆっくりと後を歩いて行った。

すでに家でくつろいでいるローダから少し離れて、ラファルが囲炉裏の脇に座り、タリアが火を起こして、イチが手際よくお茶を入れた。薬温でいれたそのお茶は、わずかに苦味があるものの、タリアが一番好きなお茶だった。
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