聖魔の想い人
「何だい坊主。わしの顔に何かついとるかね」

じっ、と自分を見ているラファルに、ローダが言った。ラファルは気まずげに目をそらす。

タリアは、チラッ、と二人に目をやり、ローダに話しかけた。

「それで、想い人、とは?」

ローダは大きく欠伸をして、のんびりと話し始めた。

「それを話す前に、<聖魔>のことを話さんとならんね」

「えぇ、ぜひ」

ローダの言葉に、タリアが頷いた。

「はぁ…やれやれ。お前たちも、このわしらが住んでいる<我界>と呼ばれる世界の他に、神や精霊なんかが住んでいる<神界>と呼ばれる世界があることは知っているね」

三人はこくっ、と頷く。
二つの世界がお互いを支え、均衡を保ち成り立っている。それは、この世の者ならたいてい知っていることだった。天国や地獄といった場所ではなく、今、ここに、もう一つの世界が重なっているのだ。

「神界には、こちらと同じように生き物が産まれて生きて、生活を営んで、死んでいく、神、精霊、魔物…様々な生き物がね」

「…魔物は分かるけど、神や精霊は、生き物なの?」

ラファルが訊いた。

「当たり前だろ。この世で生活を営んでいるものを生き物というんだ。その点じゃ神も精霊も、人と変わらんよ」

人々が恐れ尊う神を、人間と同じだと言い切った老婆を、ラファルは少し驚いて見つめた。バチが当たらないのだろうか、こんなことを言って。
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