聖魔の想い人
「一部の<史詠み博士>たちの間じゃ、そう言われてるのさ。言葉がここまで似てるのは、もとは同じ国だったからじゃないかってね」

「そうなの?でも、他の文化は全然違うよ?」

「食文化や衣や住まいは時が経つごとに変わるけど、言葉ってのは変わりようがないからね」

「タリアは、それが事実だと思ってるの?」

「それしか考えようがないからね。それか、どちらかがどちらかの国を支配してたかだろう?」

「あぁ……うん」

「それは、嫌だからね」

タリアは微笑んで、豆粒のように小さくなり見えなくなろうとしているローダの背中を追いかけた。ラファルも小走りにその横に並び、その顔を見上げた。

「でも同じ国だったなら、その時の記録が残ってるんじゃないの?書庫とかに。それを読めばすぐ分かるんじゃ…」

「誰でも読めて、記録が豊富にあるなら<史詠み博士>なんてこの世に存在しないよ」

タリアが言い、その隣でイチも笑った。

「そうそう。昔の記録ってのは非常に少ないんだ。昔の人たちってのは、自分たちのことを残し、後世に伝えていこうとは思わなかったらしい。たまに記録があっても全部古代文字や絵で記されているから、読みとくのに非常に手間がかかる」

「そうなの?」

「あぁ。文字なんてものがこの世に現れたのはつい最近でね。それまで人々は、伝えたいことを言葉と絵で示していたんだよ」

「へぇ〜」
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