聖魔の想い人
タリアとイチが話してくれる新鮮な話を、ラファルは内心わくわくして聞いていた。

母と一緒に、誰も立ち寄らないような森の奥深くにある<陰ノ室>に隠れ住んでいた時は、ただただ毎日を、何の刺激もなく過ごしているだけで。けど、外に行きたいと言うことができなかった。

母が、泣くのだ。

泣いている母を見るのが辛くて、ねだるのをやめた。…こうして、血の繋がりもない人たちと異国の道を歩いているのかと思うと、不思議だった。

母様は、大丈夫だろうか。上手く、逃げてくれただろうか。

今まで強いて考えていないようにしていたことが胸をよぎり、ラファルは唇をかんでその考えをおいやった。

大丈夫だ。きっと、母様だってタリアみたいな心優しい人に助けられているはずだ。きっとまた会える。

その思いだけが、母と別れて以来ずっとラファルを支えていた。

泣くな、と母は言った。
決して泣いてはいけない、と。泣きたくなったら、上を見なさいと。

「ラファル」

少し遅れているラファルに気付き、タリアは呼んだ。

「何してんだい。遅れるんじゃないよ」

小走りに駆け寄ってきたラファルに、自分の少し前を歩かせ、タリアはイチと並んで歩いた。タリアは、ラファルが何を考えているか分かるような気がした。たった十歳の子供が、母親と別れて来たのだ。
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