聖魔の想い人
最も、あちらの世界から来るやつらの気配なんて、タリアには分からないのだが。何かあったら、ローダが教えてくれるだろう。

ラファルにはできるだけ離れていかないよう言い、イチにもできる限り周囲に気を配ってくれるよう頼んだ。

用心するにこしたことはない。警戒するのが、タリアの仕事のようなものだった。それを除けば、のんびりと話ながらゆっくり景色を眺めながら進む、穏やかな旅だ。

「何か、人通りが多くなって来たね」

「あぁ。ヨルサの街道に入ったからね。市が開かれてるから、隊商なんかが多いだろう」

ぞろぞろと列をなして行く隊商を指してタリアが言った。

「隊商だけじゃなく、個人で作った織物なんかも店に出すことができるんだ。ヨルサの市は、国一番の賑やかな市さ」


「へぇ〜」

「私は、賑やかなのが苦手なんだけどね」

タリアは苦笑して、ふと周囲を見回した。

「あれ、ローダ師がいないね」

「ん?あれ、いつの間に…まぁ、心配ないだろう。あの人はタリア以上に、賑やかなのが嫌いだから。どこか静かな所に行ったんだろう」

イチが言ったが、ラファルは少し心配そうに、

「大丈夫なの?一人にして」

そう訊いた。

「あの婆さんに敵う人間なんて、この世にいるとは思えないね。いたらそいつは、怪物か妖怪だよ」
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