聖魔の想い人
昼少しすぎ。
周りの人々が街道脇によって昼食の準備を始めたのに合わせ、タリアたちも昼食にした。

近くの林を流れる川で、他の人々と魚をとりにタリアと一緒に行き、ラファルは驚いた。その場にいる全員で巨大な網を川に投げ込み、網いっぱいに魚を引き上げたのだ。協力して、衣を膝まで濡らしながら手伝った。

「すごいね。知らない人たちなのに、みんな協力してる」

ラファルが言うと、タリアは笑った。

「こうした方が、確実に魚をとれるだろう?ひとりでやるより、力を合わせれば時間もかからない」

人数分の魚をそれぞれに渡し、余った魚は川に再び戻した。タリア、イチ、そして自分の、三匹のまだ新鮮な魚をラファルが持ち、持って行く数が多すぎて持ちきれない人たちの分を、タリアが手伝って持った。

こんなに大勢の人が協力し合うところを今まで見たかったので、ラファルは心から凄い、と思った。人は、崩し合うばかりでなく、支え合うことだってできると思うと、鼻の奥がつん、と熱くなった。

国民を支える立場にいるはずの帝ーー父が、あんなに冷たいなんて…

……父様が民を支えているんじゃなくて、民が父様を支えているんだ。

そう思うと、ひどく情けないような気がした。父様はそのことに気付いていない。自分が多くの人に支えられていることに。自分がひとりでたっていると思い込んでいる。
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