西山くんが不機嫌な理由
初対面の西山くんのお母さんはとても陽気で気さくな人で、私の顔を見るや否や。
両手を頬に添えて「まあ、まあまあまあ」ひとり盛り上がりつつ、快く家の中に上がらせてくれた。
名も聞かずに私の顔だけを見て通してくれたところにはいささか疑問に残るけれど、それよりもまずは西山くん優先だ。
初めて入る西山くん宅に妙な緊張感が生まれ、しきりに辺りを見渡してそれはそれは挙動不審極まりない私に対してふんわり柔らかく微笑み掛け、西山くんの部屋に入るよう促してくれた。
「ごめんなさいね凪さん。翼今丁度寝たところで。起こしてくれて構わないからね」
「い、いえそんな!申し訳ないです」
首を左右にぶんぶん振ってそう言うと「あらまあ」少し残念な表情をする。
だけど瞬く間に優しい笑みを浮かべて、部屋の出入り口まで行く。
「どうぞごゆっくり。なんなら泊まっていってもいいからね」
「え、え?と、とまっお泊りですか!」
「ふふ、凪さんかーわい」
どこからどう見ても40を過ぎているとは到底思えない容姿に、可愛らしくウインクをして西山くんのお母さんは部屋から出て行った。
彼女は本当に西山くんのお母さんなのかな。
あんな可愛いとしか言いようのない人が、西山くんのような無愛想を徹底した子を産んだという事実になかなか納得し難い。
しんと静まる室内、言い方を変えればふたりきりの密室。
何をすれば良いのか分からずに、折角の機会だからととりあえず部屋の中を一通り見渡す。
それは想像していたものと全く同じ空間で、一言で言えば至極シンプルな内装。
ゲームもなければ漫画らしきものも存在しない。
あるとすれば小難しそうな、私には到底理解出来そうにない書物くらいだ。
「おっと、そうだ西山くん!」
はっとしてベッド前に膝を付き視線を向ければ、見るからに苦しそうな顔で眠りに落ちている西山くんが横たわっていた。