西山くんが不機嫌な理由
出来るだけ音を立てないように側に近寄り、床に膝を着いて西山くんの様子を窺う。
意識がない間にも、眉間にしわを寄せて呼吸も苦しそうだ。
一体何度の熱なのか。
こんな酷い状態で、私の電話なんてそれこそ無視すれば良かったのに。いやしつこく掛けた私がいけないのだけども。
西山くんの風邪の元の原因はと言えば、私が早朝から外に呼び出してしまったからなのだ。
「ごめんね。西山くん」
申し訳ない気持ちで埋め尽くされて、肝心の当人が寝ているのにも関わらず何度も声に出して謝罪の言葉を口にする。
と。
「…………な、ぎ?」
長い睫毛をそうっと上げて、西山くんが朦朧とした意識の中で私の名前を呼んだ。
「はっ、西山くん大丈夫!?」
私の顔を凝視している西山くんの表情は、いかにも私の存在に疑問を抱いている。
「心配だったから、様子見に来たんだ」
にっこり笑ってそう言うと、西山くんは一瞬顔が緩んで、だけどすぐにしかめっ面になりこちらに背を背けてしまった。
顔を壁に向けたせいで、その表情を窺うことが困難だ。
動いた反動で捲れた布団を直そうと手を伸ばせば、気が付いた西山くんにその腕を掴まれた。
その潤んだ双眸が威圧するようにこちらを映し出す。
「…………帰って」
「え?」
「…………帰って、今すぐ」
私の腕を掴んだ手に一度力を込めてそう言えば、その手はあっさりと離れていった。
虚を衝かれ、開いた口が塞がらなかった。