西山くんが不機嫌な理由
西山くんの返答がないことは予測の範囲内らしく、山城くんが言葉を続ける。
「呉羽ちゃん言ってたよ。西山くんはいっつも無口で相手にされないって」
「…………」
「彼女に寂しい思いばかりさせて、君はそれでも胸を張って彼氏面なんかできるの?」
一気に責め立てるような口調に、迫真の演技だと感嘆しつつも、その一方で不安と後悔の波が押し寄せてくる。
本当は初めから気が付いているべきだった。
急遽山城くんから持ち掛けられた提案に、後先も考えずに乗っかるべきではなかった。
どちらにしろ、私は西山くんを騙して試すような真似をしている。
彼氏がどうこう以前に、彼女の私に問題があるんだ。
西山くんは何も言わない、反応を示さない。
頭脳明晰な西山くんのことだから、きっとこれが作戦なのだと気が付いていても可笑しくはない。
黙りを決め込んでいるのは、眠たいのか、関心がないのか、怒っているのか。
答えは簡単だ。
ぎゅっと握り拳に力を込めて、大きく深呼吸をする。
すべてを打ち開けよう。
西山くんは優しい、何も言わずに許してくれるかもしれない。
「西山くん!あの、」
「…………なに、してたの」
「え」
「…………凪、なにしてたの」
どうやら私は根っからのお馬鹿さんだったらしい。
先程までの無のみだった瞳が、はっきりと怒りの念を孕んでこちらに向いていた。
西山くんが、怒っている。
予想していたことなのに、私が望んでいたことなのに。
出掛った言葉が喉に詰まり、私は声を発することもままならなくなってしまった。