西山くんが不機嫌な理由
一層喧噪が増すのを耳元に捉える。
甲高い女子特有の声が一瞬の内に耳を貫いていく。
こんな状況に陥っても未だに自分の立場を把握出来ていないのは、私だけのような気がする。
閉じろと言われていたけれど、どうしても気掛かりだ。
唇に当たる温かい感触は離れない。
そうっと瞼を上げる。視界が明るくなっていく。
「……――っに」
マシュマロか何かを押し当てられているのかと思いきや、目に飛び込んできた光景に自分の視覚を疑った。
西山くんの顔がすぐ前にある。
惜しむあまりに瞬きを忘れた。呼吸を忘れた。
周りを取り巻く音が世界から消えた。
今、この空間には私と西山くんしか存在していない。
そうっと丁寧に触れる程度の口付け。
長い睫毛は艶っぽく伏せられていて、西山くんの様子を窺うことが出来ない。
視界の端に山城くんの姿が映る。
目を大きく見開いて、こちらに視線を釘付けにしている。
驚くことは当然のこと、むしろ呼吸を停止してしまった方が楽なのかもしれない。
やがて、時間感覚が朦朧となってきた頃。
西山くんが私の肩を抑えて距離が開いていく。
私は何かに憑りつかれてしまったかのように、西山くんから目を離すことが出来ない。
彼の姿しか、視界が捉えようとしない。
それ故か、西山くんを覗いた視界に映る景色がぼやけていく。
口をぽっかり開けて、おそらく大分間抜けな顔をしているであろう私をまじまじと西山くんが覗き込んでくる。
瞬間思考がはっきりして、みるみるうちに顔に熱が上がっていく。
今更ながら恥ずかしくなって顔を背けようとする。
と。
「…………こっち、見て」