西山くんが不機嫌な理由
今にも頭から煙がもくもくと立ち上がっても不思議ではない私を不審に思ったらしく、西山くんが少し背を屈めて覗き込んでくる。
ご自分の一部始終の言動をぜひ一度振り返っていただきたい。
兎にも角にも、このままではいてもたってもいられない。
西山くんの腕に抱かれているだなんて、意識する度に脳内で噴火が勃発している。
腕を前に突き出して弱々しい力なりに西山くんを押して、一定の距離を取る。
と。
ふらついて不安定だった足をぴったり直角90度に捻り、一瞬の内にして身体が横に傾く。
「お、わ、わ、わっ」
大脳では確かにはっきりと持ち直せという指令が運動神経に出されているのに、身体が頑として言うことに耳を聞かない。
「呉羽ちゃん!」
倒れ込む寸前の身体を後ろから抱きとめられる。
耳に届いた声からして山城くんだ。
「あ……ごめん、ありがとう山城くん」
「いいえ。大丈夫?立てる?」
「お、おう、ノープロブレム!」
山城くんの手を借りて起こしてもらうのは2回目だなと、申し訳なく思いつつ差し出された手に自分の手のひらを乗せようとする。
パシッと、乾いた音がほんのり静まりつつある教室に響く。
ふたつの手は触れ合うことなく、目の前にあった山城くんの救いの手が払われていた。
西山くんの、手によって。