西山くんが不機嫌な理由
行き場を失くした手が虚しく宙を舞う。
顔が、上げられない。
「に、しやまくん……?」
ようやく振り絞って出した声は、やはり西山くんに対するもので。
「…………凪。ばか」
西山くんが私と同じ目線になるようしゃがみ込み、顔を覗き込みながらその口調はやけに冷たい。
だけど、気のせいだろうか。
私しか映し出されていないその瞳には、垣間の優しさが窺えた。
「ば、ばかって!返す言葉もないけど……」
「…………そう、ばか」
口を尖らせて拗ねてみるも、西山くんの口調は至って真剣なもので。
まさかそんなことを伝えたいがために会いにきたのかと勘違いしてしまいそうになる。
いつも周りから馬鹿だと言われ慣れている故、今更大げさに傷付くことはしないが、その相手が西山くんとなると状況は大幅に異なる。
無口の西山くんが口にする言葉は信憑性を帯びるのだから。
だけど、どうしようにも私は自他共に認められる、どうしようもない馬鹿なのだ。
だって、どんな酷い言葉を吐かれたって構わない。
西山くんの視界には私しか存在しないことが、嬉しくてたまらない。
愛おしくてたまらない。
「そう、だね。私は馬鹿だね!馬鹿上等!」
完全に開き直り、おどけて満面の笑みを見せる。
複雑に頭を悩ませているうちに、もう何だかどうでもよくなってきたのも一理ある。
「西山くんが言うなら、きっとそうなんだ、よ……ね?」
最後に目にしたのは、眉をぎゅっと顰めて辛そうにした西山くんの顔。
再び肩に腕を回されたと感じたときには、呼吸が苦しくなるくらいに力強く抱き締められていた。