西山くんが不機嫌な理由





「西山くーん……おーい」

「…………黙って」

「いえっさー」



背中にぎゅうぎゅうにはち切れそうなくらいに込められた力。




元よりそれを押し返す気はさらさらないが、今しがた目の前では観客兼クラスメートの騒めきがとてつもないことになっている。



西山くんはそんな情景に背を向けているから分からないけれど、喧噪くらいは耳に入っていても当然だ。



「あのーう、せめて場所を変えてからにしてくれたら嬉しいかなあ……みたいな」



鋭く突き刺さる女子様の悪意の視線に半ば泣きそうになりつつ話し掛けるが、肩に頭をもたれ掛ってピクリとも反応を示さない。



はてどうしたものか。




爆破寸前の心臓には必死になって気が付かないふりをする。



落ち着いた呼吸を心掛けて、2、3回深呼吸を繰り返す。



「に、西山くん。う、嬉しい限りなんですけれども、私の心拍数にも気を遣ってやって!」

「…………うるさい」

「ですよねー全力でごめんなさい」



バクンバクン、心臓が有り得ない鼓動を奏でている。



視界に映る光景を全て忘れ去るように目をきつく瞑り、手探りで考え事の邪魔をしないようにそうっと西山くんの背中に手を這わす。




それだけだと物足りなかったため手に力を込めると、もっとずっと強い力で抱き締められる。



これが男と女の差なのか。




細身だと思っていた背中は意外とがっしりしていて、それでもって、小刻みに震えていた。



「……西山くん?」




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