西山くんが不機嫌な理由
肩は掴まれたまま、それを振り解こうとも思わなければ、むしろもっと強く力を込めてほしいとさえ願った。
「にしや、」
「…………なの」
「え?」
「…………凪は、誰が好きなの」
「そ、それはもちろん」
西山くん以外の人なんて有り得ない、そう言い掛けて言葉が喉に詰まる。
先程みたく、頭の中が混乱状態に陥ったわけではない。
逆に普段より冷静になっているような気さえする。
「…………"もちろん"、だれ?」
「だ、から……西山くん、しかいない」
「…………うそ」
「本当、だよ」
「うそだ!」
心臓が鷲掴みにされた気分だった。
自身の心に戸惑いは一切生じてないのに、咄嗟に答えることが出来なった自分が分からない。
だけどそれよりも、言葉に一定の間をつくることなく声を上げた西山くんに驚きを感じられずにはいられない。
それに、そんな大きな声、初めて聞いた。
「う、うそじゃない!そうじゃなきゃ付き合ってなんかいな、」
「…………うるさいっ」
「にし、」
射抜くような視線に気が付かないふりをしてそう主張するが、あっけなく途中で言葉を遮られた。
それでも懲りずに名前を呼ぼうとすると、次の瞬間酸素ごと奪われて、口を塞がれていた。