西山くんが不機嫌な理由
「ご、ごごごめごめん西山くん……!私ってば勢いに乗ってなんてことを!」
「…………なぎ」
「ど、どどどどうしよう!ほっぺ痛む!?保健室直行する!?あぁその前に仕返しに私にもビンタを一発食らわせる!?」
「…………凪。聞、」
「ほんとごめんなさい申し訳ございません。謝るからなんなら土下座でもなんでもするから嫌いにならないで!!」
言いながら、西山くんの返答を聞く前に床に膝を着いて土下座の体制をつくる。
頭の中はとにかく混乱の一言でしか言いようがなくて、どうか別れを切り出せられないよう死にもの狂いになる。
そんな私を見下す西山くんの溜め息が耳に届く。
拒絶されたようで身体に鉛を落とされたような状態に陥る。
呆れてる。愛想尽かした?彼氏に手をあげる女に用なんかない?
考えれば考えるほどに思考が悪い方向に止まることなく突き進む。
「…………凪。顔上げて」
口調がほんのわずかに柔らかさを含んでいるような気がした。
言われた通りに身体ごと床から上げて西山くんを見る。
電流が走った。
ビリビリ張る電子の集まりが一気に襲い掛かってくる。
痺れが身体中を駆け巡る。
――世界中の人々の幸せを、全てまるごとひっくるめるかのような。
開いた口の間から垣間白い歯を覗かせて、西山くんが笑顔を浮かべていた。
先程も微かに口角を上げて笑っていたけれど、そのときとは比べものにならない。
それくらい、西山くんが眩しく見えた。
「……西山くん、怒って、ない?」
「…………嬉しい」
「うれ、しい?」
信じられない言葉に自分の耳を疑ったが、こっくりと頷く西山くんがそれを真実だと物語っている。
相変わらず綺麗な顔にはほんのり笑みを浮かべたまま、愛おしいものでも前にしたかのように優しい表情を向けてくる。
何だかくすぐったい気持ちになる。