西山くんが不機嫌な理由
おもちは好きですか?
「西山ー。ちょっといいかー」
高校1年の3学期後半。
放課後、鞄を肩に掛け帰り支度をしていたところ、担任から呼び止めをくらった。
一刻でも早く家に帰ってベッドでくつろぎたいのに、なんとタイミングの悪い。
授業中はよく寝ているけど、だからって担任直々から怒られるほどの心当たりはない。
気怠にその場で立ち止まると、担任が自ら近付いてきた。
その手にはノートが何冊か収まっている。
どうしようもない嫌な予感が頭を過ぎり、顔が引き攣る。
「申し訳ないけど、頼みがあるんだ」
「…………」
「1組の女子生徒が今日風邪で欠席したらしいんだ」
「…………」
「調べたところ、彼女の家に最も近い所にある家が西山の家だった」
「…………」
「大体歩いて15分足らずの距離だから、彼女に授業のノート類を届けに行ってくれないか」
「…………」
「そう、面倒くさそうな顔するなよ」
終始黙って話を聞いていた俺の顔には、しかと"なんだそれ面倒くさい極まりない"が表情に現れていたらしい。
担任が困ったように苦笑しつつ、首を捻る。
今のうちに帰っても構わないだろうか。
だいたい、どうして2つもクラスの離れたよく知りもしない生徒の届けものを、家が近所だというだけで押し付けられなければいけない。
その上女ときた。
今日はきっと厄日に違いない。