西山くんが不機嫌な理由
つまりは好きなんだ。
そうして時は流れに流れ、現在の状況に至る。
目の前には、溢れんばかりの絆創膏を収めた箱を手にする凪。
先日のことを随分と長い時間回想に浸っていたらしい。
凪が困った顔してこちらの様子をちらちらと窺っていた。
「西山くーん。おーい」
「…………」
「寝てる?もしかして立ったまま眠りに就いてる!?」
「…………」
「あわ、あわわわわ。べ、ベッドにどう運んだらいいのかな」
思考錯誤悩み倒している凪に返事をすることなく、ただ黙って見詰める。
所々跳ね上がった髪は寝癖だと認識していたけれど、どうやら天然のようだ。
先程体育の授業を受けてまだ着替えを済ませていないのか、服装はジャージのまま。
ちょこまかと動き回ったせいで額に滲む汗は、前髪を貼り付かせている。
不意に額の擦り傷に視線が奪われる。
できたばかりであろうそれは、前髪に隠されてさほど目立つものではないけれど、傷はやけに深そうで。
凪が保健室に訪れた理由が分かった。
手を伸ばして凪から箱を横取りすれば、その目を大きく見開いた。
「あれ!西山くん起きてたの?」
驚きを孕んだ声を耳に、箱から絆創膏を1枚取り出し残りを近くの机に置く。
まだ状況を理解しきれずにぱちぱちと目を開いては閉じる繰り返しの凪に呆れの目線を送りつつ、彼女の額にそうっと手を這わす。
「ひょわ!に、西山くん!?」