西山くんが不機嫌な理由
そんな突拍子もないことを言われて、驚くなと言うほうが幾分無理がある。
冗談である可能性も頭を過ぎったが、口を真一文字にきつく結んで見上げてくる凪の表情は真剣以外の何ものでもなくて。
作っている握りこぶしが小刻みに震えているのが視界の片隅に映り込み、何も言えなくなった。
心を占める大半の感情は、驚きと戸惑いからよるもの。
興味がある以上迷惑には思わないけれど、そのうえ最初に質問したのはこちらからなのだから。
「か、彼女になりたいとか、そんな欲張り極まりないことは言うつもりはないよ!実際願望はほんのちょっとあるけど」
「…………」
「気持ちを知ってほしかっただけと言えば嘘になるけど、だけど好きな気持ちは本当だよ!」
「…………」
「それで、ですね」
改まって敬語を挟み、一歩退く。
「お、お友達になってください!」
大きく頭を斜め60度まで下げ、右手を差し出す。
これは、肯定なら握手をしてほしいという意味が含まれているのだろうか。
先程から凪がひとり話を進めてきている話になってきているけれど、俺は実際まだ一言も言葉を返していない。
仮にも告白されたのだから、それ相応に返事を返さなければいけないのに、凪はその隙さえ与えてはくれない。
友達は別に減るものでも何でもないし、なったって構わない。
だけど、友達は友達。
凪の母親が言った恋人とは、決定的な境界線が引かれていることになる。
差し出された凪の手に自分の手を伸ばして、握手はしないで腕を強く引く。
「わあっ」
思い切り引き寄せたため、驚きを隠せない凪が足をよろめかせつつ顔を上げる。
こちらの様子を窺いたいのだろう。
だけどお生憎様、生まれつき表情筋の発達のみが育っていないのだ。
心の奥に秘めた感情が、顔に表情として現れ出ていない自信ならある。