西山くんが不機嫌な理由





頭の思考を働かせる以前に、無意識に口は開いていた。



その先発せよようと試みていた言葉は当然知らない。




そして、自分すら予測のつかない答えを出すことは失敗に終わった。




ガラリ、すぐ横の扉が開かれて、ひとりの男子生徒が顔を覗かせたからだ。



「…あらら。ごめんね、もしやお邪魔しちゃった?」



こちらを驚いたように凝視したあと、全く気後れする素振りを一切見せずにクツクツ喉を鳴らせる。



確かに、男が女の顎を自分側に引き寄せている光景を前にすれば、誤解を招くのは当然のことで。




第三者である男の登場により、弾かれたように後ろに退く凪。




元々甘い雰囲気でも漂っていたわけではないけれど。



確実に言えることと言えば、無関係な人物の登場で先程までの話を続行させるのは絶対的に無理なことだ。




と。



流れるなんとも言えない微妙な場面を見計らったように響く、授業開始の予鈴。



「に、西山くん!わた、私教室戻るね!えと、お大事に!」



ここぞとばかりに、凪は言葉を残して保健室から走り去っていく。



微塵も感じられない名残惜しさに、どこか空虚感が胸を襲う。




保健室に訪れていたものだから、体調が優れないと判断したらしい。



実際は仮眠のとれる場所なら、どこでも構わなかったのだけれど。



「あちゃー」



後方から聞こえた声に振り返る。



そこには先程突然乱入してきた男が、呑気に壁に腰掛けてこちらの様子を窺っていた。



「俺ってば世間体からすれば完全の邪魔者だねー」

「…………」

「ごめんねー西山くん。謝るからそんな睨まないでよ」

「…………」

「ん?お前だれだって?山城くんだよ。山城大河」




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