西山くんが不機嫌な理由
口に出して尋ねたわけでもないのに、わざわざ名乗り出る山城とか言う男。
正直なところ山城の存在自体には微塵も関心を持ち合わせていないのが事実。
どちらかと言えば邪魔者にまで値するのだ。
男を一瞥して視線を逸らし、教室の奥に数台設けられたベッドに横になる。
「おーい。悪かったってば。機嫌直せよ」
懲りることなく近寄って話し掛けてくる男に少々の苛立ちを覚える。
別に特別機嫌を悪くしているわけではない。
逆に鬱陶しいくらい声を掛けてきているほうに機嫌を損ねるが。
「お詫びに西山くんの彼女……と、なんて名前だったっけ」
「…………」
「なんか珍しい名字だったよな。名前にあるそうな」
「…………」
「あ、思い出した。そうそう呉羽ちゃんだ」
朦朧とした意識はすでに夢と現実の狭間を行き交っている状態。
凪の名前を耳にしたことで少しだけ覚醒したものの、一旦襲ってきた睡魔が完全に消え去るのにはかなりの長い時間を要する。
そしてこの男は根本的な部分で誤解を招いている。
俺と凪は付き合っているわけでもないし、友達関係ですらあるのか微妙な立ち位置にいるのだ。
「無口無表情無愛想な西山くんでも簡単にマスター出来る、彼女との楽々コミュニケーションでも教えようか?」
「…………」
「あれ。これでも興味を示さない?」
「…………」
「困ったなー。なかなか興味深い話題だと思ったんだけど」
めげずにいつまでも話す男の声を掻き消すように、寝返りを打って壁と向き合う。
相手にするのは面倒だ。
「あ、じゃあさじゃあさ。俺いいこと思い付いちゃった」
「…………」
「彼女を一瞬で自分の虜に出来る方法、知りたくない?」
閉じた目をほんの少し開いて男の様子を窺えば、企み顔で怪しげに口元に笑みを浮かべていた。