西山くんが不機嫌な理由
その全ての状況を把握しているかのような表情に、凪の母親の面影を重ねる。
この男は、間違いなく生きている中で最も関わり合いたくない人種だ。
これだけは断言しても構わない。
一見ふざけているようにしか見えないのにも関わらず、脳裏では予想の範疇を超える思考を携えているものだから。
相手にするときには、細心の注意を払う必要がある。
「どう?興味沸いた?」
「…………わかない。うるさい」
「またまた、折角のチャンスなのに?」
「…………」
「そう意地ばっか張ってると、呉羽ちゃんが他の男に取られちゃうよ?」
こちらの反応を窺って存分に楽しみたい目論みが分かり易く見え透いている。
どうしてこうも赤の他人の諸事情に首を挟みたがるのか、その真意が全く持って理解し難い。
「西山くーん、本当にいいのー?」
「…………お前に、関係ない」
むくり、ベッドから上半身を起こして男と向き合う。
突き放すように言い放てば、「ふーん」目を細めて口元には微笑を浮かべる。
「それじゃあ俺、今すぐ呉羽ちゃん追い掛けて告白でもしちゃおうかなー」
その言葉に、無の表情に力が入る。
自身の顔が強張ったのが分かった。
「顔はまあ一応普通だし、あれは絶対に化粧栄えする顔立ちだよね。あと柔らかそうな雰囲気も結構好みだし、付き合ったらすごく尽くしてくれそうだし?」
「…………」
「ねえ、西山くん。彼女、もらってもいい?」
どうして俺に許可を取る必要がある。
人の言動に口を挟む権限を持ち合わせてはいない。
そんなの自分の思い通りに勝手に動けばいい。
そう、口にしかけた言葉を喉に詰まらせる。