西山くんが不機嫌な理由
何も言葉を発することなく、ただ逸らすことなく男の顔を穴が空くくらいに凝視していれば。
不意に、男の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「冗談だよ、冗談。怒らないでね?」
無意識のうちに男を睨み付けていたらしい。
何も言わずに視線を下に向ける。
「あの有名人な西山くんの彼女なんて初めて目にしたから、少し調子乗っちゃったかな」
舌を出しておどけたように笑ってみせる男に再度目を向けて、首を横に振って否定を示す。
「…………ちがう。彼女じゃない」
「あれ、そうなんだ?」
肝心なところを修正したというのに、さほど興味なさげに、気の抜けた返事を返される。
付き合っているのか否かは、男にとってそれ程重要な項目ではないようだ。
「付き合ってはなくとも、両思いなんでしょ?ふたり」
図々しくものんびりとした動作でベッドの隅に腰を下ろして、顔を覗き込んでくる。
尋ねられて、素直に頷くわけがない。
凪にはつい先程想いを告げられたのは確かな事実だけれど、問題はそこではない。
そこで疑問が生じる。
どうして今まで大して気に留めることをしなかったのだろうか。
無意識に目を奪われる。
その姿に興味を注がれる。
平穏な心を掻き乱される。
凪と出会って、今までの今まで気が付けば振り回され続けてきたけれど。
果たして、俺の凪に抱いている感情の正体は、その名前は。
――"恋"と呼んでも、良いのだろうか。