西山くんが不機嫌な理由





時間を確かめたかったけれど、生憎廊下に時計を設けてある筈もなく。




再度保健室に引き返すわけにはいかない。



あの男が未だに滞在していたとすれば、今度こそ厄介な目に遭う確信がある。




少し迷った末に、足は一直線に教室へと向かっていた。




がらり、大して意識することもなく教室の扉を開ける。



思いの外音を立てていたために、途端集中する好奇の視線。




教室中に小さな騒めきが起こる。



「おー西山、どこに行ってたんだ」



あまり怒る素振りも見せずに、呑気な声を掛けてくる教師の声を受け流して自身の席に足を運ぶ。



机の脇に掛けてあった中身のない薄い鞄を手に取り、踵を返して出入り口に向かう。



「…………帰ります」



扉を閉める間際隙間から顔を覗かせ、微かに目を見開く担任に一言告げて廊下に出た。







「お、西山くん、帰るの?」



昇降口で靴を履き替えている際に、背後から聞き覚えのある声が掛かる。



嫌な予感は、必ずしも的中するものである。




振り返ることなく玄関から出ようとすれば、追い掛けてきた男が行く先を阻くように立つ。




保健室の男。



つくづくタイミングの悪いところに出没しないでほしい。




無視して横に移動すれば、その度に男が前に立つ。



つくづく面倒くさい極まりない。




容赦なく溜め息を漏らした。




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