西山くんが不機嫌な理由





あからさまな拒絶反応を露わにすれば、クツクツ愉快そうに笑う。



「西山くんてさ、言うほど無表情でもないよね」

「…………」

「今、うわ来たよ鬱陶しい男が、って思ったでしょ」



得意気な顔して図星を当ててくるけれど、妙に複雑な心境により頷いてなんかやらない。




人それぞれものの好き嫌いくらいは必ずと言ってもよい程存在する。



俺にとって、その苦手と分類されるグループにこの男は確実に即仲間入りである。




苦手とする箇所を上げるとするならば、居心地が悪い、微かに沸き起こる苛立ちが収まらない、眼中に入れたくない。



「西山くん、もしかしなくとも俺のこと嫌ってるよね」

「…………」

「ていうかそれ以前にさ、自分のクラスメートの名前と顔、全員覚えてる?」



途端替えられた脈略のない話に首を傾げる。



この男に対しての評価と、自身のクラスに何か繋がりでも生じているのだろうか。




顔を顰めて意味が分からないと返事を渋れば、「はは、やっぱり」予測通りとでも言いたげな口調。



「俺、西山くんの前の席なんだけどなー」

「…………」

「せめて近くに座る人の性別と名前くらい、覚えておこうよ」

「…………」

「な?にっしー」



男の言葉にささやかながら動揺する。



そのはちみつ色の髪とやや切れ長の目に全く見覚えがないと感じた筈なのに、まさかの同じクラスの上席が前後ときた。




我ながら普段の学校生活の無関心さをしみじみと実感させられる。




思い返すはつい先程鞄を取りにいくため訪れた教室。



窓際の後ろから3番目の席は自身のものだから、当然の如く空席だった。




そういえば、その前の席も住人がいなかったような気がするようなしないような。




だけどどちらにしろ、こんな居心地の悪い男なんか脳裏に記憶されなくても困ることはない。




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