【完】MOON STONE ~美しき姫の秘密~


この時になって初めて私は翔ちゃんを傷つけたって理解した


ほんと、バカ


一番の支えになってあげたいのに


少しでも楽になって欲しいのに


こんなんじゃ、どうするの


「……うぇっ…うぅー…」



幼いながらに後悔して、自分を責めて


泣きながら家に帰った


まだ明日謝ればいいって


一晩置けば私の頭も冷えるし


翔ちゃんだってきっと許してくれる


そう、思ってたんだ


………私は明日が無いかもしれないなんて知らなかったから


その日を境に私は翔ちゃんと話さなくなった


いや…話せなくなった


次の日、家の前で翔ちゃんが出てくるのを待ってた


どんな事を言おうか?どうしたら許してもらえるか?そんな事を考えながら


けど、遅刻ギリギリになっても翔ちゃんは家から出てこない


インターフォンを鳴らすことも考えたけど、あの女の人とうまく話せる自信がなくて


仕方なく、その日は学校に向かった


私達はクラスが違ったから直ぐには会えなくて昼休みにクラスに行ったけれど、翔ちゃんはいない。


その帰りも


次の日の朝も


昼休みも、帰りも


そのまた次の日の朝も


昼休みも、帰りも。



…私は、避けられていた


それは小学校卒業、中学入学の時まで続いた。


なんと本当にそれまで1回も会わなかった


きっと頭が良くて、小さい頃からずっと一緒にいた翔ちゃんだからこそ出来た事だと思う


この時ばかりは幼馴染という関係を何度も恨めしく思ったりしていたけど


最悪の展開はここから始まった


中学入学式の日の数日後、翔ちゃんは姿をくらませた


私の両親も、おじさんも、その再婚相手の女の人も


誰も、その行方がわからなかった


それでも私は探し続けた


だって、私、翔ちゃんが苦しんでたの全然気づいてあげられなかったから


幼馴染みで一番近くにいた私なのに何も…


私にしてくれた優しさ、まだ何も返せてなかったから


毎日が苦しくて、何度も翔ちゃんが夢に出てきて


もう、生きてるのかわからないくらい。


それ程翔ちゃんは私にとって無くてはならない存在だったの


自分でも重いと思うけど、止められない


あくる日もあくる日も探し続けた。


…そして、とある冷たい風が吹き抜ける日





翔ちゃんは帰ってきた。





…ピンポーン


夕飯の後、リビングで宿題をしているとチャイムが鳴った


こんな時間に誰だろう?


そう思っていると


「出て」


母親の冷たい声に押され、扉を開けると…








「翔、ちゃん…」


扉の前にいたのは


翔ちゃんだった。


あの頃よりずっと身長も伸びて、大人っぽくなってて


また一段とカッコ良くなってた



「栞」


だけど、そう呼ぶ優しい声は全く変わらない


「翔ちゃん!!!」


視界がボヤけてまた翔ちゃんの姿を見失いそうで、思わず飛びついた


いきなり飛びついたのにしっかり受け止めてくれる程逞しくなってて驚いた


元から決して小さい方ではなかったけど私と大して変わらなかった翔ちゃんが、今ではすっかり男の人



翔ちゃんがここにいる、その事実を噛み締めていると


「栞、遅い!誰だったのよ!」


…母親の怒鳴り声が部屋の中から木霊して、びくっと肩が揺れた


顔を見る暇もなく急いで翔ちゃんから離れて家を振り返ると


ツカツカ音をたてて近づく足音


そして、母親の姿が見えると


母親は立ち止まって目を見開いた


その視線の先には私…


いや、私の後ろにいる翔ちゃんを見ていた


「翔聖、君…?」


「…お久しぶりです」


翔ちゃんが少し会釈をして呟くと


「あらぁ!翔聖君じゃない!!」


家ではまず聞く事のない高く弾むような声で翔ちゃんに駆け寄った


だから私は離れるしかなくて


一歩…二歩、横にずれて俯いた


よく、状況が飲み込めない


唇を噛み締め母親の鳥肌がたつような声に耐える


"今までどこにいたの?"とか


"カッコ良くなったわね〜"とか


"ゆっくり話したいわ!"とか


私が言いたかった事、全部先に言われてしまった


私が1番に言いたかったのにな


なんて、そんな事を頭の隅で考えながらひたすら、2人の会話が終わるのを待っていた


母親のマシンガントークで会話なんていえるのか、微妙なところだけどね。
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