【完】MOON STONE ~美しき姫の秘密~
「…じゃあ、風邪ひかないようにね?またいらっしゃい」
「はい。ありがとうございます」
やっと母親の話が終わると、
母親の顔はニッコリした笑顔のまま私に向いた
「栞も"風邪引くから"早く家の中に入りなさいよ」
「…はい」
顔をみたとき、ゾクッと背筋が凍った
目の奥が全く笑ってない…。
風邪引くからなんて心配してない、
ただ早く翔ちゃんから離れろって言ってる
どうしてそこまで………。
「それじゃあね?翔聖くん」
「はい、ご心配おかけしました」
母親は家の中に消えた
取り残された私達
「「………………」」
沈黙が、辛かった。
だって翔ちゃんの顔、すごく怖いから
眉を寄せて私を見てる
そうだ、翔ちゃんは知らない
母親がこんなになってしまったこと。
その時翔ちゃんは姿をくらましてたし
誰にも、言ってないから。
…その沈黙をやぶったのは翔ちゃんだった
「明後日、夜1時に迎に来る」
…え
「早く家入れ。
じゃあな」
それだけ言うと翔ちゃんはさっと身を翻し暗闇に消えた
明後日、夜1時に迎に来る…。
耳に残った声が頭に響く
それは、嬉しくて楽しみで
辛くて苦しい約束だった。
────────*
その日はすぐにやってきた
シーンと物音しない部屋を忍び足で抜け、
予め開けておいた小さい部屋の窓から地面に降り立った
…なんとか脱出成功
ミッションっぽくてちょっとだけワクワクした
家の外に出ると、家の前の壁に背を預けて立っているシルエットが見えた
…あれは、絶対翔ちゃん。
デートの待ち合わせみたいで、
なんだかドキドキしながら
「翔ちゃんっ」
駆け寄った。
私に気づくと翔ちゃんは体勢を直して私を見つめ、
「あまり時間が無い、急ぐぞ」
ぶっきらぼうにそう言って
私の手を引いて歩き出した。
「(うるさい、心臓…。)」
好きな人に手を握られて、緊張しないわけないよ
きっと翔ちゃんはそういうつもり無いんだろうけど私は…嬉しい
振り返る事のない背中を見つめながらつかの間の幸せを噛み締めた
しかし、翔ちゃんはどこに向かってるんだろう?
かれこれ10分程歩いた気がするけど…。
「翔ちゃん、どこに向かってるの?」
「ゆっくり話が出来る所だ」
え…どこ…?
2人共通の場所かと思いきやそうじゃないらしい
だって私はこんな所知らない
それはまるで、
"住んでる世界が違う"
─そう言われてるようだった
「ここだ」
翔ちゃんが立ち止まった先にあったのは
「え…?」
大きい建物。それもかなり。
…ここはどこ?
首を傾げていると
「行くぞ」
「ちょっ…翔ちゃん!」
ここは何処か、わからなくて困ってるのを絶対知ってるのに教えてくれない
意地悪なんだか無口なだけなんだか。
だけど私は引っ張られるままその建物の中に入っていった