【完】MOON STONE ~美しき姫の秘密~
「うわぁ…すごい…」
シャッターの横から中に入ると広がるのは大きな広場
物は何も置いてないけど何をするところ何だろう?
かなりの大きさがあるのに綺麗で思わず声がこぼれた
「…………」
翔ちゃんは勿論、反応はしないけれど。
ただ私の手を引いて広場の真ん中を歩いていく
この大きな空間には私達だけど足音が響いていた
…そして、一番奥。
大きな階段を登りきると扉があって
扉を開けると、廊下が姿を現した
一体どうなってるの…この建物
ますますわけがわからなくてただ翔ちゃんについて行くしかなかった。
少し進むと、翔ちゃんはとある部屋の前で立ち止まって扉を開いた
躊躇なく部屋に入る翔ちゃん。
必然的に私も入るしかなくて、引っ張られるように足を踏み入れた
──部屋の中、
整理整頓された、テレビやソファーや冷蔵庫がある部屋の中に
私と翔ちゃんは向かい合って座っていた。
翔ちゃんは足を組んでどこかを見つめてるし
ここが何処なのかサッパリわからない私は何もできずにただ座っている
私達の間には沈黙だけが流れていた
「栞」
その時、翔ちゃんが思い切ったように口を開いた。
「…っなに?」
久しぶりに呼ばれた名前が嬉しくてしょうがない
けれど、これから何を言われるのか、わかってる
「俺がいない間、何があった」
ジッと私を正面から見つめて
まるで嘘はつかせないと言っているよう。
何も無いなんて言えなかった
私は下を向いてポツポツ思い出しながらあの時を語った
「翔ちゃんが居なくなったあと…両親が離婚したの
原因は…まぁよくあるお父さんの浮気。
でもお母さんはそれが許せなかったみたいで、お父さんが困るように浮気相手に多くの慰謝料を請求した
…だけどお父さんの浮気相手は凄くお金持ちだったから
"それで別れてくれるなら"って笑いながら支払ったの」
その日の事は忘れられない
申し訳なさげなお父さんと、初めて見るお母さんの殺意ともいえる怒りに満ちた顔
余裕と自信に満ち溢れた綺麗な浮気相手
2人が去った後、お母さんはずっと泣いてた
「その時私は…翔ちゃんの事で頭がいっぱいで、お母さんの事考えてあげられてなかった
隠れてお父さんに会ってた私は、お父さん達の結婚式に行った
けど、その時全部がバレて…初めて手を上げられた
そこからお母さんは私を大切にしてくれなくなった。
いつからか私もお母さんを親だと思わなくなった。
…それだけだよ。」
訪れたのは再び沈黙。
改めて整理しながら話すと道筋が見えてきて私も頭の中が軽くなった気がした
だけどこれだけはどうしてもわからない
それは"誰が悪かったのか"という事
浮気をしたお父さんか
浮気をさせてしまったお母さんか
今のお母さんを作ってしまった私か
お母さんからお父さんを奪った浮気相手か
どうしても、わからない
考えても、わからない
全員が悪いと言えば悪いと思うけど
悪くないといえば悪くないと思う
"気持ち"は自分にしかわからないし
"好き"という気持ちは理屈で止められるようなものじゃない
わかってる、わかってるけど…
「…栞」
翔ちゃんに呼びかけられてハッとした
気づいたら翔ちゃんは隣にいて
「…………っ」
手のひらで私の頬を拭った
離れた手を目で追うと
その手は微かに濡れていた
「…っごめん」
泣くなんて、私らしくない