狂々にして仄暗く
五、絶対に入ってはなりません
「法師さま、法師さま。この先の山には入ってはなりませぬ。人を何人も殺した妖怪がいます故に」
ならば、それは私が退治しなくてはなりません。と、法師は山へ入っていく。
「お殿さま、お殿さま。この先の山には入ってはなりませぬ。腕っ節の強い侍がいます故に」
ならば、ぜひとも我が家臣にしたい。と、殿様は山へ入っていく。
「旅のお人、旅のお人。この先の山には入ってはなりませぬ。男を堕落させる遊女がいます故に」
ならば、ますますもって行きたいものだ。と、旅人は山へと入っていく。
「お嬢さん、お嬢さん。この先の山に入りなさい。どんな願いも叶えてくれる神様がいますよ」
そんな嘘には騙されないと、娘は山に入らずに去って行く。