出会って1秒出逢いは1年
「知ってる?人間五感をたくさん使うと記憶に残りやすいんだって」
「そうなんですか」
にやり、伊月くんはわらう。
どんっ、耳元で床が強く叩かれ くいっと顎をもたげられる。
にこり、さっきとは違う優しい笑みを最後に私の視界は閉ざされた。
その代わりに………
ちゅっ───
額に笑みを含んだキスが降ってきた。
「ちとせ」
すとんと耳に入ってきてそのまま残る伊月くんの声はそんな声だった。
「い、つきくん?」
「これ以上あんたにくっついていたら千種に殺されそうだから止めとくわ」
ふわりと離れ際に香ったオレンジ。
さっきまでとは違う笑みを浮かべる伊月くんに違和感を覚えた。
「ほら。伊月は用済んだら帰れ」
紙の束といくつかのUSBを手にして千種が現れる。
「あー流石。千種。」
ひょいひょい千種の手から受け取りいつ現れたのかリュックに放り込む。
「んじゃまたね」
来たとき同様、自分のペースで颯爽と帰っていく伊月くんにかける言葉もないまま…ドアの閉まる音がした。
「……ちとせ?あいつになんかされた?」
「え?なにもされてないよ?」
「そっか、」
くしゃくしゃと頭を撫でるその手に少しの不安を覚えたのを気づかぬフリで笑った。
そのあとは来訪者もなく、ふたりで映画を見たりゲームをやったりして過ごした。