恋は盲目〜好きって言ってよ

早番のシフト希望を提出していた私は、

18時に仕事を終えて急いで帰宅する。


時計を見ると約束の時間まで1時間しか

ない。


急いでシャワーを浴びて着替えをし鏡の

中の私を覗く…


そこにうつる浴衣姿の私がいた。


わざとらしいかしら?


あの日に着ていた浴衣。


だけど、浴衣を着る機会なんてこんな日

じゃないとなかなか無いから…なんて言

い訳。


本当は下駄を履けば歩みの遅い私の手を

彼がまた繋いでくれるかもなんて淡い期

待をしている。


髪をかんざし一本でまとめ上げ、ルージ

ュをひくと


ピンポーン…


時計を見ると19時半


もう一度、鏡を覗きおかしなところが無

いか確認。


玄関に向かい扉を開けると、そこには会

いたかった彼が立っている。


微笑み、見つめる2人。


「準備出来た?…」


「うん」


「それって、自分で着た?」


「簡単な結びなら自分でもできるから、

せっかくだし着たんだけど着替えて来よ

うか?」


「いいよ。そのままで」


はぐれないようにと微笑み手を差し出し

私の手を繋ぐ彼。


土手沿いに歩いて会場へ行くとそこはも

う人で溢れていた…


「さて、どこで見ようか?」


「おーい、拓海、奈々ちゃん…こっち、

こっち」


声のする方へ振り向くと飯島さんが手を

振って寄ってくる。


「ちっ」


苦々しく舌打ちして繋いでいた手が離れ

る。


「…飯島さんと待ち合わせ?」


2人きりじゃなかったんだ…

やっぱり、期待のし過ぎ…

がっかりする私。


「奈々ちゃん、今日もかわいいね。やっ

ぱり、花火大会と言ったら浴衣だよね」


「お前、どうしているんだ…」


低い声が、さらに低くなる。


「俺も花火見たかったんだよね。綺麗な

花火…それに飲み会って誘ったけど話聞

いてなかったんだろう」


「奈々ちゃんとデートだったとはね」


私を見る飯島さんに笑顔で返す。


「奈々ちゃんに会えてうれしいよ。つい

でに拓海の顔も見れたしね〜」


付け足すような意味深な言葉。


ドーンと大きな花火が打ち上がる。


「さぁー、そろそろ始まるよ。あっちで

一緒に見ようね。奈々ちゃん」
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