恋は盲目〜好きって言ってよ

あの時の彼が目の前に立っていた。


「……なにか?」


「…あっ、失礼しました。あの時はあり

がとうございました。またお会いできて

うれしいです。お仕事先はこの近くなん

ですか?」


まるで、会えるのを期待してたみたいに

言うなんて、私のバカ…。


「どこかで会いました⁈」


えっ、覚えてないの…


やっぱりあれはただの社交辞令だったん

だ…

「申し訳ございません。人違いのようで

す。……Lサイズですね。ただいま、お

持ちします」


彼は、お腹を押さえてクスクスと笑う。



「ごめんね、覚えているよ。電車の子だ

よね」


なんなの…。失礼な人。


「君って面白いね……顔に全部でている

よ」


思わず両手で頬を押さえて顔を隠す。


彼は口元を押さえながら、まだクスクス

と笑っている。


接客中だということも忘れ彼を睨みつけ

て、店の奥からワイシャツを出してくる

と無言で彼に突きつけた。


目を大きく開き驚く彼を無視して、別の

お客様の接客につくと彼の元へ花村さん

が甘ったるい声で彼に声をかけていた。


「ネクタイもいかがですか?」


「そうですね…」


にこやかに花村さんに笑顔を向けるとネ

クタイコーナーへと向かう男。


後ろから花村さんも続きワイシャツに会

うネクタイを幾つか選んで彼に見せるが

、気に入ったものがないのか彼は悩んで

いるようだ。


私は、接客中のお客様に頼まれネクタイ

を選んでいる…


私が手に持っているネクタイ達は彼が選

んだ水色の細かいチエック柄のシャツに

あうネクタイ達。


(私…誰の選んでるの⁈)


「彼女の持っているネクタイがいいな」


花村さんは振り返り私の手元を見る。


「松井さん、こちらのお客様にそのネク

タイを見せてあげてください」


声は、優しいがトゲがある。


恐る恐る花村さんに渡し、早くその場か

ら離れようと背を向けるが……


「君は、どれが一番いいと思う?」


声をかけられ戸惑う私に花村さんは、キ

ッと睨み目だけで怒りをあらわにする。


「松井さん、お願いします」


花村さんは、作り笑顔で軽く会釈すると

私が先程まで接客していたお客様の元へ

向かった。


きっと、気の強い彼女の事だから後で嫌

味を言うのだろう。そう思うと気が滅入

ってしまう。
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